「心の自然治癒力」を高める 『レジリエンス入門』より
記事:筑摩書房
記事:筑摩書房
「レジリエンス(resilience)」は、私たちがよく知っている「ストレス(stress)」と同様に、もともとは物理学用語だったものです。それがその後、心理学用語として使われるようになりました。
物理学用語としての「ストレス」は「外圧による歪(ゆが)み」という意味です。
それに対し「レジリエンス」は「その歪みを跳ね返す力」として使われています。
嫌なこと、辛いこと、悲しいことを経験すると私たちの心はへこんだり、途中でくじけそうになったり、落ち込んだりします。そんな嫌な気分をもとの正常な状態に戻す力が「レジリエンス」なのです。
また、予期せぬ事態に遭遇すると、私たちは動揺して混乱したり、途方にくれたり、不安に襲われたりします。そんなとき力になってくれるのもレジリエンスです。レジリエンスによって、冷静さを取り戻すことができるのです。
レジリエンスは、マイナスの状態を正常に戻すだけではありません。正常な状態をプラスに変えてくれる力も持っています。
例えば、あなたが何か大きなチャレンジを前に尻込みしているとしましょう。そんなあなたの背中をそっと優しく押してくれるのもレジリエンスなのです。
心理学用語としてのレジリエンスは「精神的回復力」「復元力」「心の弾力性」などと訳されることが多いのですが、もう少し分かりやすく表現すると「目の前の逆境やトラブルを乗り越えたり、強いストレスに対処することができる精神力」のことです。
私の研修や講演では「メンタルタフネス」「ストレス耐性」「心の自然治癒力」と表現することもあります。
私は個人的には、レジリエンスを「心の自然治癒力」と表現することが好きです。その理由は、一部の人だけが持っている何か特別な力ではなく、もともと誰にでも備わっている身近なものだからです。
心の自然治癒力が高まれば、落ち込んでも立ち直りが早くなるなど、マイナスの感情から回復する力が強まります。精神も安定しますので、集中力が高まり、その状態を長く維持することが可能になります。気力も充実してきますので、何事にも積極果敢にチャレンジしようという意欲も高まるのです。
レジリエンスを「心の筋肉」と表現する人もいます。筋肉がない人はいませんので、これも的確な表現だと思います。
「自然治癒力」と「筋肉」には、共通の特徴があります。
それは次の二点です。
(1)個人差が大きい
(2)鍛えれば強くなる
自然治癒力に関して言えば、例えば、カゼをひいてもひと晩ぐっすり眠れば、すぐに治ってしまう人もいます。ところが、一度カゼをひいてしまうと、冬の間中ずっと咳(せき)はコンコン、鼻はグジュグジュなんて人もいます。ただ、いつか必ずカゼは治ります。どんな人にでも自然治癒力は備わっているからです。
食事や運動を始めとした生活習慣を見直すことによって、自然治癒力は確実に高めることができます。
一方、夜更かしや暴飲暴食など不摂生(ふせっせい)な生活を続けていると、自然治癒力は弱まってしまいます。また、間違った健康法は、かえって体に害を与えてしまいます。
筋肉だって同じです。マッチョの人もいれば、ガリガリの人もいます。筋肉がつきやすい体質の人もいれば、筋肉がつきにくい体質の人もいます。
ただ、鍛えれば必ず筋肉量は増え、筋力を強くすることができます。
一方、さぼれば筋肉量は減り、筋力も衰えてしまいます。
また、鍛え方を間違えれば関節を痛めてしまうなど、かえって逆効果になってしまうことすらあります。
このような共通点から、私はレジリエンスを「心の自然治癒力」と考えても「心の筋肉」と考えても、どちらでも構わないと思っています。
いずれにしろ、正しい「やり方」で鍛えれば、確実に強くなります。