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50の多彩なトピックが織り成す入門書 『フランスの歴史を知るための50章』

『フランスの歴史を知るための50章』(明石書店)

 かつてフランスでは、日本のことを「世界の果て」と形容する場面にしばしば出合ったものである。いまでもさほど珍しくないのかもしれない。確かに、中国・朝鮮の東に浮かぶ日本列島は、ヨーロッパ大陸部の最西端に近いフランスとは、ユーラシア世界の対極に位置している。

 ところが、そのフランスは、幕末・維新以降、長いあいだ日本人にとってもっとも馴染み深い国の一つとなってきた。イギリス、アメリカ、ドイツなどと並んで、他に先んじて近代化をとげた先進国であり、日本がモデルとすべき国であるとされてきたのである。

 このようなフランス認識は1970年代あたりまではさほど色あせていなかったが、その後、徐々に影を薄くしていったように思われる。ことに東西冷戦の動揺からグローバリゼーションの本格展開へいたる世界の変化とともに、外国へ旅行したり外国で生活したりすることが特権的ではなくなり、歴史学を含む諸学の担い手たちは海外の専門家との研究交流や海外文書館での史料・資料の調査を当然のごとくおこなうようになった。

 そうした変化のなかで、早々に近代化を達成した欧米先進諸国、フランス、イギリス、アメリカ、ドイツが各々に独自の歴史的経験を重ねてきたこと、また、現在のフランスを構成する諸地域は、あくまでも歴史のなかで形成されてきたのであって、それぞれ固有の歴史を有することなどは、当たり前の認識となって定着した。

 幾多の日本人がフランスそして欧米の人びとと接触・交流を繰り返していくことで、あるいはフランスそして欧米の各地を訪れ、また彼の地で生活することを通じて、これらの認識は、わたしたちのなかにしっかりと根を下ろしてきた。

 いまでも、フランスへの憧れは日本人に多かれ少なかれ息づいているように見えるが、しかし、そこでのフランス像は、もはや近代的先進国だからというだけではなく、はるかに陰影に満ち、幾多の襞が刻まれて、現実を如実に反映したものとなっている。そのような現時点におけるフランスとその歴史を知っていただくべく本書は編まれた。

 フランスの歴史を知るための50章であるからには、中心的に言及されるのは、「メトロポル(内地)」と呼ばれる地域で起こった事象である。

 ところで、わたしたちがフランスと呼ぶ地理的なまとまりは拡大したり縮小したりと変遷を繰り返しながらかたちづくられてきた。フランスが支配、統治、影響、戦争、等々を契機として関わりをもってきた地域が、メトロポルの枠を大きく超え出ていることは指摘するまでもない。したがって、本書の扱う地理的範囲はフランス本土に限定されるわけではない。それは時代によっても変化する。

エッフェル塔。1889年パリ万国博のモニュメント、ギュスターヴ・エッフェル設計

 本書は第Ⅰ部から第Ⅳ部までの4部で構成され、各部はそれぞれ「古代・中世」、「近世」、「近代」、「現代」にさしあたり対応している。しかし、これは現在のフランス史認識のうえで承認されうる便宜的な時代のとらえ方にすぎない。歴史における時代区分は流動的であり、歳月の経過、社会の変化、歴史研究の進展などとともに変わっていくものである。

 第Ⅰ部において「古代」が扱われるのは事実上第1章だけであり、そこでは古代ローマの時代に「ガリア」と呼ばれた地域について、またフランスが立ち現われてくる経緯について、紹介がなされる。他方、第Ⅰ部の大部分を占める「中世」については、フランスの出現から15世紀半ばの英仏百年戦争の終了ころまでが扱われるが、ひと昔まえならルネサンス(あるいは近代)との対比において暗黒とさえ形容された「中世」の生き生きとした実相が語られている。

 「近世」へ言及する第Ⅱ部では、おおよそ15世紀の後半から18世紀末(フランス革命前夜)までが対象となる。実は「近世」という呼称が市民権を得たのは比較的最近のことにすぎず、かつてはむしろ「初期近代」などと呼ばれていたものである。

 これにたいし、「近代」に対応する第Ⅲ部では、フランス革命から第一次世界大戦前夜までの時期が取り上げられる。大革命で時代を画するのはフランスだからという面もあり、本書もそれを受け継ぐ。

 他方、「現代」にあたる第Ⅳ部をどこからはじめるかについては様々な議論がありうる。現代のフランスを対象とした歴史学や隣接諸学の知見を踏まえれば、第二次世界大戦や20世紀後半の冷戦崩壊のころに「近代」と「現代」の分水嶺を見出す立場にも十分な説得力が認められる。本書では、現状におけるフランス史研究の蓄積の厚みを踏まえ、第一次世界大戦を起点として現在にいたるまでを「現代」として扱うことにした。

 こうして4部に分かれて配置された各章は、通史的な色合いの強いもの、テーマ重視のもの、やや立ち入った分析が際立つものと、様々である。編者としては、41名の執筆者各位の個性が息づくような章、コラムであってほしいと考えてきたが、一方では全体のバランスに配慮し、また一般の読者にわかりやすい文章となるように努めてもいる。そのようにして記された50章と8つのコラムである。

 どこから読んでもらってもかまわない。興味を引いたページを開いて、フランスについての何かを発見し、フランスの歴史の魅力を感じ取ってほしい。そして、フランスの政治、経済、社会、文化について、ときに細かな部分へ立ち入り、ときに全体へ思いを巡らしていただきたい。これはそのように読んでほしい本である。