傷ついた心を癒す、小さな幸せの見つけ方 韓国イラストエッセイ『簡単なことではないけれど大丈夫な人になりたい』
記事:大和書房
記事:大和書房
『簡単なことではないけれど、大丈夫な人になりたい』はフリーランスのイラストレーターとして活動しているホン・ファジョンが日記を元に執筆したイラストエッセイだ。心の病を患い、ベッドから出られず、涙を流しながら過ごした毎日。心理カウンセリングや投薬治療を受けながら自分を見つめた約3年間の絵日記の抜粋とともに、家族や友人とのさまざまなエピソードがコミック形式で紹介されている。
――耐えられそうにないほどの憂鬱感と絶望感に襲われて、ついに病院に行った。
体のあちこちにクリップを付けて、自律神経機能検査というものを受けたら、意外にも“正常”な数値が出た。正常だなんて。私はこんなにつらいのに、その苦痛を認めてもらえないことが怖くなり、やっぱり私が弱すぎるだけなんじゃないかと自分のことが疑わしくなった。
病院を出て、仲のいい女友達に電話でそう話したら“あなたが悲しいなら悲しいのよ。周りは関係ない”と言ってくれた。おかげで少し気持ちが落ち着いた気がする。自分が感じている悲しみと苦痛を疑わない人になりたい。――
全人口の50%以上がソウルを中心とした首都圏に集中している韓国。著者もまた上京して一人暮らしをしていたが、物価の高いソウルでは収入のほとんどが生活費に消え、副業として始めた受付アルバイトのせいで創作活動の時間も取れない。矛盾した毎日とさまざまなストレスに耐え兼ねた彼女は、ついに家族の元に戻ることを決意し、父親と妹が暮らす韓国南部の蔚山(ウルサン)で暮らし始める。「ソウルで頑張らなければ」という思いを諦め、地方暮らしを始めた著者の孤独や不安、焦りに苛まれた日々がつづられる。
――一日中誰とも話さずに寝て、起きては仕事をし、また眠るということを繰り返している。部屋の片隅から、虚しさが大きな目で私を見つめているような気がするが、こんな時間もいつかは過ぎ去るだろうと思いながらギュッと目を閉じる。孤独というのはカッコいいものだと思っていたが、実際の私の孤独は寂しくて、じめじめした侘しさに包まれているかのようだ。よくもまあ、孤独に見えるのはカッコいいなんて言えたものだ。
好きな人たちに会って、おしゃべりしつつ合唱みたいに笑い、おいしいものを食べながらいい歌を聴いて、同じ空間で楽しい時間を共有するというのは、どれほど美しいことだったのだろう。毎日誰かと会って、そんな時間を過ごすことが多かった頃は知らなかった。それがとても美しいものだということを。――
もどかしい日々の中で、父親と仕事について語り合ったり、規則正しい生活を送るために一日のルーティンを決めたり、マラソン大会に出場するために妹と一緒にランニングを始めたり……。小さな挑戦を重ねながら自分と向き合うたびに新たな発見や気づきが生まれ、著者の心には希望や意欲が芽生えていく。
――再び心を整える。私は誰なのか、何が好きなのか、何をしたいのか、そして、したくないのか。ゆっくりと知っていこう。いい本を読んで、いい映画を観て、運転も習って、水泳も習って…。この機会に自分ともっと仲良くなりたい。こういう寂しさと孤独感を知ったからこそ、他人に優しい人になりたい。――
――無理にでも体をデスクの前に座らせて、頭をひねり、手を動かしてお金を稼ぐ。そのお金で欲しかったワンピースとふとんと本を買って、コーヒーを飲み、お酒を飲んで、旅行にも行くつもりだ。しなければならないこと、労働が最近の私をしっかり支えてくれている。――
思うように頑張れない自分を責め続けていた著者は、少しずつ自分の心とうまく付き合う方法を見つけ、“大丈夫”な自分へと近づいていく。
――私はなぜ努力しない生き方を情けないと思い、最悪なことだと考えるんだろう? なんの努力もしない私であっても、好きになってあげなきゃ。――
――以前のように、私はこうでなきゃ、そうでなきゃと責めたりはしない。そんなことをしたって自分がストレスを感じるだけだから。その代わり、自分とうまく折り合いをつける方法が少しずつわかってきたんじゃないかと思う。数日ぐらい休んでもいいよ、それでいいんだよ、って言いながら。――
本書には、友達や家族の言葉、ふと目にした光景など、著者が切り取った日常の小さな発見や幸せが詰まっている。慌ただしい日々の中でつい見逃してしまいがちな瞬間の大切さに改めて気づかせてくれ、もっと目を向けたいと思わせてくれる一冊だ。