普通に結婚してほしかった、と母は言うけど―― 小林エリコさん×鈴木大介さん対談(後編)
記事:大和書房
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鈴木 お母さんについては、どう思っていますか?
小林 私がお母さんに言われたことで一番ショックだったのは、「普通に就職して普通に結婚してほしかった」という言葉で。こんな酔っ払いのほぼアル中の人と結婚して、殴られて、不幸な家庭をつくっておいて、なぜ娘に結婚してほしいって言うんだろう?って。
鈴木 多分、それ以外の幸せになるロールモデルを知らなかったんじゃないですかね。お母さんのそのセリフについては、「時代の被害者」という感じが強くします。お母さんの人生って、ちょっとホラー映画みたいに残酷。
小林 そうなんですよね。感情的にお母さんのこと許せないって気持ちがあったり、実家に帰りたくないとも思うんですけど、そういうことをやってると後々後悔しそうだなと思って、頑張って LINE したり、母の日にプレゼントを送ったりしてます。お母さんには、これからは自分の人生を生きてほしい。突然社交ダンスに目覚めた!とかでいいから生き生きしてほしいですけどね。
鈴木 そうですね。もう、お父さんを肯定する必要はないのかもしれない。あの家族の結果として「今の私」があるってことを受け入れることが、苦しくならない担保になるのかな。ただ家族って他の家とどこが違うのか本当にわからないんですよね。子供にとっては親って一番判断しづらいものだから、比較対象物があって初めて評価を始められると思うんです。だから、この本の「エリコさんのお父さん、お母さん」っていう比較対象が、不幸な家庭に育ったり、難しい親子関係で苦しんだ人には、過去を整理するのにすごく助けになると思う。
小林 そういっていただけると、嬉しいです。あとは、サブタイトルにもあった「新家族」をつくったほうが、お母さんが安心するのかなというのは考えますけど。
鈴木 そうなんですね。
小林 私、「結婚した女が幸せである」みたいな呪いが未だにかかっていて、死ぬほど上野千鶴子の本を読んでも「まだ結婚しないとダメ」みたいなものが頭の隅っこにいるんです。
ただ、結婚した友達がみんな「全然幸せじゃない」って言うんですよね。結婚してるし、子供もいるし、孫もいるんだけど、結婚する前に戻りたいって言う。だから、付き合っている人がいるのはいいんだけど、籍は入れなくてもいいんじゃない?っていう意見が、既婚者の方からは多いです。弁護士をやっている友達は、たくさんの離婚調停をしているので、籍は入れない方がいいって言いますしね。
鈴木 エリコさんはどう思うんですか?
小林 私もその方がいいのかなって思うときもあるし、籍を入れたほうがお得なことがあるんだったら入れた方がいいのかなとも考えますが、逆に籍を入れちゃうことによって、本当はもう一緒にいたくないのに籍を抜くのが面倒くさいから無理して一緒にいるみたいなのは嫌かな、と思います。
ただ、私も一人暮らしを10年ぐらいやってきて、人生を一人で生きるのは寂しいし長すぎると思います。そういうのがわかってきました。高校生の時は、絶対結婚しない!一生ひとりで生きていく!って思っていたけども、一人いるのは結構寂しいです(笑) 。
鈴木 僕は貧困取材が長かったので、そこには思うところがあって。結婚ではないにしても、性が同性であろうが異性であろうが「生活を共にするパートナーがいる」ってことは保険なんだとわかりました。経済的な保険という意味ではなく、精神的な保険として。
恋愛って究極の自己肯定感だと思うんですが、一緒にいることで相手が「ここは自分の居場所である」って肯定してくれれば、それは一緒に暮らすなり、お互いを一番肯定し合える距離感で一緒にいるのがメンタル面で必要だと思います。
小林 すごくよくわかります。
鈴木 あと、経済的なことをいうと、やっぱり完全なおひとり様っていうのは、今のジェンダーギャップバリバリの状況では一部の能力に恵まれた女性のみが享受できる贅沢な幻想だなと僕は思っています。だって、 おひとり様でも楽しく暮らしている女性って、みんな能力が高いじゃないですか。だからその幻想は、そうなれない女性にとって残酷に感じるんです。むっちゃ叩かれそうですけど。
小林 いえ、本当そうですよ。私だって未だにパートですもん。だから貧困の一人暮らしをするしかない。一人暮らしをしてても週末にちゃんと遊びに行けるような暮らしをするには、ちゃんと稼いでいないとできないから。ああ、男性に頼らざるを得ない女の悲しい人生、嫌だな(笑)。
鈴木 どんな形であれ、パートナーシップがあるのは賛成ですね。僕はパートナーシップについて長期展望で、3~5年くらい一緒に住まないとわからないとは思っているので、ゆっくり関係性をはぐくんでほしいと思いますけれど。
小林 そうですね。ゆっくり考えていきたいです。新しい家族の形を。