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5人のストレンジャーが語る理解され難い自己との「折り合い」のつけ方

リーペレス ファビオ『ストレンジャーの人類学――移動の中に生きる人々のライフストーリー』(明石書店)

日常的に関わるストレンジャー

 こことは違う、よそから来た外国人や異人種間に生まれた子どもは、その外見的特徴や話す言語、価値観、行為、そして移動の遍歴などが異質(strange)であることから、ストレンジャー(Stranger)と呼ばれてきた。ところが、今ではグローバル化によって国境を越えた人々の移動が普遍的となり、国籍や人種、宗教、言語などにおいて、多様な出自を持つ人々と日常的に関わりを持ち、多文化への理解も深まるようになった。かつて、ストレンジャーと呼ばれた人々も異質ではなくなってきた。つまり、誰もが「理解しやすいストレンジャー」になったのだ。

理解され難いストレンジャー

 しかしながら、中には、より複雑な経歴を持つ「理解され難いストレンジャー」がいる。例として、私の生い立ちを取り上げてみよう。

 私はメキシコ人の母と韓国人の父を持ち、韓国で生まれた。幼少期から少年期を外交官であった母と共に、韓国、メキシコ、日本、マレーシア、そしてまた韓国へと移動してきた。このように、国際移動を繰り返す過程での中で、私は多様な教育を受けて育ってきた。日本の公立小学校に始まり、次いで、マレーシアと韓国の日本人学校で日本の学校教育(小学校及び中学校)を、さらに、韓国のインターナショナルスクールで英語による学校教育を受けてきた。それから、アメリカへ1人で渡り、大学で学士の学位を取得した。その後、メキシコとカナダと日本での就業経験を経て、日本の大学院で文化人類学の専門教育を受け、博士号の学位を取得した。そして現在、日本の大学の教員として働いている。

 日本社会では「外人」扱いされ、メキシコでは“oriental(東洋人)”と呼ばれ、アメリカでは「アジア系アメリカ人」あるいは「メキシコ系アメリカ人」のように扱われてきた。「何者だ」と聞かれれば、分かりやすい「メキシコ人だ」と答える。すると、私の外見と相手が持つ「メキシコ人」のイメージが一致せず、騙されているのではないのかと怪しまれる。「韓国人とメキシコ人のハーフだ」と答えたら、日本語による教育課程を受けてきたことを疑われる。移動の遍歴を説明すると、疑問を持たれ半信半疑の面持ちで見られる。これまで生活した日本、韓国、メキシコ、アメリカやカナダで、誰に何語で話しても、私の素性は疑われ、そして怪しいと思われた。つまり、私はどこにいても誰にとっても怪しいストレンジャーだったのだ。

 グローバル化が進む昨今、私のように複雑な移動の遍歴を持ち、多言語・多文化の中で生きる人々は、正確な統計は存在しないが、年々増加していることが想像できる。本書では、このような複雑な移動の遍歴を持つ5人のライフストーリーを通して、「ストレンジャーの文化」について考える。

いかに自己を語るのかではなく、いかに他者を語るのか

 本書が着目するのは、ライフストーリーの聞き取りから、いかに自己を語るのかではなく、いかに他者を語るのかである。従来、異文化は定着の視点から語られてきた。そこで、移動の中に生きる人々の視点から見えてくる異文化とはいかなるものなのか、そこから反映されるストレンジャーの文化とは何かを追求する。

 本書に登場するナタリアは、外見的特徴が異なることを理由に「外人」として扱われてきた。様々な状況の中で、外見的特徴だけでなく名前などの差異にも触れられ、他者化されてきた。次に取り上げるのは、ナタリアが名前を「日本的」に変えることで、日本人との間の差異を縮めようとした語りである。

 小学校の頃、作文を書くときにさ、2マス空けてタイトル入れて、次の行に名前を書くときに、下から書くじゃない。で、あれにフルネームを書くと、「ナタリア グスタフソン いずみ(名前 苗字 ミドルネーム)」だったの。だから、「みずいンソ」って下から上まで書いていったら、(原稿の)天辺すぎちゃって。先生も「これは困ったな」みたいな。「(名前が長すぎて書けないなんて)初めてだ」って言われて。最初は「1マスに2文字入れていいから」って言われて。でも、小さいからさ、うまく書けなくって。で、後で、先生に「日本の名前だけでもいいんじゃない」って言われてから「泉ナタリア」に定着したの。(日本国籍の)パスポートには、アルファベットで書いてあるところはカッコで「Gustafferson(グスタフソン)」って書いてある。今でも(ネットで)チケット買うときに「泉(グスタフソン)」って入れようとしても入らないのね。だから、ラストネームは「泉」だけ。でも、空港でやっぱり毎回止められて聞かれるの、「なんで名前が全部入ってないんですか」って。「いや、入らなかったんです」って。

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