コロナ禍でも見え隠れした「自分が正義」という恐ろしい心理
記事:大和書房
記事:大和書房
「自分が絶対正しい」と思っている人のタイプに、とにかく自分のメリットを最大化しようとする『利得型』があります。たとえば、有名店で行列に並んでいるとき、あなたの前のおばさんが「○○さ〜ん、こっちこっち!」と言って、友人を四人も五人も列に入れてしまったとしましょう。普通なら「おかしいでしょ」と思うところですが、相手にしてみれば「並んでたんだからいいでしょ!」という論法なわけです。
これはあきらかに「自分のメリットを守るため」の行動です。そのような人に注意しようものなら、「いったい何人だったらいいんですか?」「友だちを列に入れちゃいけないってルールで決まってるの?」と、猛烈な反論が返ってくるでしょう。
このように利得型は自分のメリットにとても敏感で、「損か、得か」しか考えず、自分が損をする(あるいは、得をできない)となると徹底的に攻撃します。理屈、常識、マナーなんてものが通用する相手ではないのです。
あなたの周りにも「自分の意見を通すために、すぐに怒る」という人が、一人や二人いるはずです。これはまさに利得型の得意パターン。彼ら、彼女らは「怒れば周りが言うことをきく」ということを経験的に知っているのです。
非常に困ったタイプではありますが、特に日本人は「怒っている人と口論してまで、自分の主張を通す」ことを避ける傾向が強いですから、このタイプにはじつに住みやすいコミュニティなのです。「これはオレのものだ!」「この席はもともと私が取っていたのよ!」と怒鳴れば、たいてい自分のものになります。レストランでも、ホテルでも大きな声で文句を言えば、それなりに丁重に扱ってくれます。
以前、あるレストランで「店員の態度が悪い!」と文句をつけている人を見かけました。耳を傾けてみると、その人も「自分に対してもっと丁寧に接客するのが当たり前だ」という「自分なりの正しさ」を強く主張していたわけです。結局、店長が謝罪し、ワインを無料でサービスしてもらっていました。最初からワイン狙いでクレームをつけたわけではないでしょうが、「してやったり」です。こうして、「ごねれば得をする」という成功体験を得て、ますます利得型の行動パターンに拍車がかかるのです。
利得型にもじつは二つのタイプがあって、「自分の言っていることは間違っているな」と薄々感じつつも「自分の利得を守ろう」と主張してくるケースもあれば、心の底から「オレは何も間違ってない!」と思い込んでいるケースもあります。
(1)まともな思考を持ちながらも、「自分を守るため」狡猾に振る舞うタイプ
(2)心の底から「自分は正しい」と思い込んでいる、勘違いタイプ
このどちらも問題は多いのですが、後者は特にやっかいです。平気で事実をねじ曲げたり、都合のいい解釈をしたり、過去に言ったことと真逆なことを言ってきたりするのですが、本人には「悪いことをしている」「自分が間違っている」という意識がまったくありません。
そのため、何を説明しても「言い訳するな」「都合のいいことばかり話すな」と逆に説教されてしまうのです。まともな感覚の持ち主からすれば、「本気で言っているのか?」と感じるところですが、相手は本心で「自分は間違ってない」と思っているのです。
そして残念ながら、「無自覚で利得型に徹することができる人」は、大きな組織のなかでは出世しやすいタイプでもあります。部下の手柄は自分のものにしてしまうし、自分のミスは部下に押しつける。そんなことを何の疑いも良心の呵責もなくやってのけてしまうのですから、組織のなかで出世するのもうなずけます。
利得型には、善人の仮面をかぶっているようなタイプも潜んでいるので要注意です。顕著な例は「あなたのために言っている」と言いながら、自分の利益を確保するタイプ。親子の関係でも、「あなたのために……」と言いつつ、実際には親自身の体面を保つ、あるいは虚栄心を満たすために言っているケースはよくあります。
上司や先輩でも「あなたのために……」「お前自身の将来のために……」という言葉をしばしば用いる人がいますが、そのフレーズが出てきたときには「それって本当に私のため?」「あなたの得のためじゃないの?」という疑いの目を、ちょっとでいいので向けてみてください。
もちろん、なかには本当にあなたのために言ってくれている人も大勢いるのですが、「自分が絶対正しい」と思っている人の被害者になりやすいのは、得てして素直で、従順で、純真無垢なタイプ。つまり、「あなたのため」と言われると、つい「なんていい人なんだ」と思い込んでしまうタイプが被害者になりやすいわけです。
【本書『「自分が正義」の人に振り回されない方法』より一部抜粋、再編集】