100人に1人がサイコパス?!──身近な「冷血」とどう付き合うか 原田隆之『サイコパスの真実』より
記事:筑摩書房
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まず最初に、「サイコパスについての神話」に考察をめぐらせてみよう。
神話というくらいだから、これらはすべて事実とは異なる。本書では、「サイコパスの真実」について、研究結果やデータを基に詳しく解説をしていくが、簡単に真実の一端を述べると以下のようになる。
まず、サイコパスとは多種多様な人々であり、連続殺人事件のような凶悪犯罪に加担している者は、例外的だと言ってよい。圧倒的大多数のサイコパスは、シリアルキラー(連続殺人者)でもなければ、犯罪者ですらない者もいる。
また、サイコパスは映画や本のなかだけに存在するのではない。われわれの身近にも存在し、さまざまな事件や問題を起こして、社会に計り知れぬ影響を与え続けている。サイコパスはあなたの隣にもいるかもしれないし、あなた自身がサイコパスかもしれない。実は、サイコパスは思ったよりも身近な存在である。サイコパスは、人口の1パーセントから数パーセントいると見積もられている。つまり、学校のクラスに一人くらいいてもおかしくはない。会社にも必ず、何人ものサイコパスがいる。
もちろん、刑務所のなかにもサイコパスはいるが、その割合は、おそらく世間の人々が思っているより少ない。実は、刑務所人口の5分の1くらいしかサイコパスではない。大多数の犯罪は、サイコパスでない者によって、引き起こされている。
映画や小説などでは、サイコパスは冷徹な思考能力を有し、知能が高い犯罪者というイメージで描かれることが多いが、実際はそうではない。ほとんどのサイコパスの知能程度は、一般的な人々と大差なく、平均的である。
サイコパスには、一般の人々と異なるさまざまな特徴があるが、それを専門家でない者が見分けることは、非常に困難である。不可能だといっても言いすぎではない。なぜなら、サイコパスは人を騙すことを得意としているからだ。凶悪事件の犯人に対して、「あんなに優しい人がなぜ」「あんなに礼儀正しく、どこにでもいる普通の人なのに」などの証言がされることがあるが、もしかすると犯人はサイコパスで、周囲が皆、まんまと騙されていたのかもしれない。
サイコパスの原因については謎が多いが、さまざまな事実も明らかになりつつある。なかでも、家庭環境や生育環境にはほとんど原因がないことは、数多くの研究がはっきりと示している。正確には、これらが無関係というのではない。悲惨な環境で育った者が、それだけを原因としてサイコパスになるわけではないということである。
サイコパスにも心を込めて接すれば、彼らは心を開き、その態度や行動を改めるのだろうか。答えは、残念ながらノーである。現在のところ、サイコパスに対する有効な治療はない。
このように見ると、サイコパスについての謎がますます深まったように感じられたかもしれないし、不安も高まったかもしれない。一体、彼らはどのような人々で、どのように接すればよいのか。見分けることができないのなら、どのように避ければよいのだろうか。
しかし、サイコパスを知り、その対処法を知っておけば、何もいたずらに恐れる存在ではない。
また、サイコパスという存在が、人口の1%という決して少なくない一定数で存在し続けているということは、社会的にも進化論的にも、それなりの意味があるはずである。その謎が解けたところに「サイコパスの真実」が見えてくる。
(『サイコパスの真実』より抜粋)