今日は何の日? 日々のコネタに、社会を考えるきっかけに 『すぐに役立つ 366日記念日事典』
記事:創元社
記事:創元社
タイトル通り、366日すべてに記念日がある。七草や春分などの日本の伝統的な日や国民の祝日もおさえたうえで、圧倒的に多いのは企業や業界、団体、個人が制定した多種多彩な記念日である。
その日を記念日とする由来は語呂合わせであったり(ゴクゴク飲むで5月9日など)、商品の発売日や創業者の誕生日であったりとさまざまで、その解説を読むだけでも面白い。それにプラスして、ちょっとした雑学も得られるのがこの本の醍醐味。
たとえば写真家のやなぎさわごう氏が制定した「シマエナガの日」の日付は、1年で最も寒い日とされる二十四節気の一つの大寒の日(1月20日※年によって変わる)。なぜその日かというと、シマエナガは寒ければ寒いほど羽の中に空気を入れて膨らむことから、とある。シマエナガの特長がわかるうえに、「大寒の日はまんまるなシマエナガを見られるかもしれないな」なんて想像も膨らむ(※シマエナガは北海道に生息する野鳥)。
他にもへぇ、と思ったのは、3月13日の「ペヤングソースやきそばの日」。企業による商品PRの一つだが、商品名の由来がおもしろい。
まるか食品株式会社が制定。(中略)日付は「ペヤングソースやきそば」が1975年3月13日に発売されたことから。当時はカップ麵が高価であったため、若いカップルに二人でひとつのものを仲良く食べてほしいとの思いから「ペア」と「ヤング」をあわせて「ペヤング」という名前を付けたという。
ほほえましい内容から、当時のカップルに思いをはせる。カップ麺が高級でまだまだ珍しかった時代、「あのペヤングを彼氏(彼女)と食べるなんて素敵!」そんな世界観があったのかもしれない。私の知り合いにペヤングが大好きなおじさんがいるので、このキュンとする由来を教えてあげようと思う。ヤングの頃に心わしづかみにされたものって、何歳になっても好きですよね。
可愛らしい記念日の一方で、難病や世間によく知られていない病気の周知をはかった記念日もある。たとえば、「失語症」。「し(4)つ(2)ご(5)=失語」と読む語呂合わせで4月25日に制定された「失語症の日」の項を読むと、こうある。
脳出血、脳梗塞などの脳血管障害や交通事故などで脳が損傷すると「聞く」「話す」「読む」「書く」などの機能が損なわれてしまう失語症。日本には約50万人いるとされる失語症の人の福祉や医療に関する活動、病気についての啓発などを行うNPO法人日本失語症協議会が制定。コミュニケーションを取ることが困難な失語症の人は社会からの理解を得にくく、十分な支援を受けていないのが実情で、社会的に孤立している人も少なくない。記念日を通じて大勢の人にこの障害について知ってもらい、支援を広げることで失語症の人の社会参加を進めるのが目的。
なんと50万人も、日本には失語症の人がいる。これを見て私は最近、テレビで失語症の特集を見たのを思い出した。その時はじめて「失語症」というものがあるのを知った。まだまだ働き盛りの人が突然の事故や病気で自由を奪われる現実を見て、事の深刻さを思った。ただ悲しいことに、こうして得た知識も日々の生活の中で記憶は薄れ、いつの間にか忘れてしまうこともしばしば。その点、記念日に制定されているとその日付がくるたびに思い出すことができる。記念日というのは人の記憶に残すための非常に有効な手段の一つだ。
人の病気だけではなく、動物のものもある。10月22日の「キャットリボン(猫のピンクリボン)の日」というのがそれだ。この項目には以下のようにある。
動物のがん治療の質と治療成績の向上を目指す一般社団法人日本獣医がん臨床研究グループ(JVCOG)が制定。人と同様に猫においてもがんは多く、中でも発生率が高い乳がんによって多くの猫が命を落としている。乳がんの早期発見、早期治療を普及し、乳がんで苦しむ猫をゼロにすることが目的。日付は10月が人の乳がん啓発月間(ピンクリボン月間)であることと、22で猫の鳴き声である「ニャンニャン」の語呂を組み合わせて10月22日に。
猫のがんについてなんて、日頃考えることなどなかった。しかも乳がんが多いなんて、初耳だった。書店の一角には猫の本があふれ、SNSにも猫の投稿がひっきりなし。その人気はもはやブームなどと呼べる一過性のものではなくなっている。だけどその命の数だけ、苦しんでいる命も必ずあるものだ。日頃意識されなくても忘れてはいけない大切なことを、記念日は留め置いてくれる。
ここに紹介したのはごくごく一部である。なんといったって、上下巻あわせて記念日の数は2362件にものぼる。世相を反映したものから新たな文化を根付かせようとするもの、企業や団体の商品・活動PRなど、その一つ一つに制定した企業や人の熱意がギュッと詰まっている。こんなサービス、商品、活動、特産物があるのか!なんていう発見もあったりして、意識していなかった自分の身のまわりの世界がちょっと(というか、だいぶ)広がるような感覚だ。
企業努力に唸ってみたり、自社の商品PRの参考にしたり、はたまた日常会話や朝礼、授業のネタにするなど本書の活用方法はさまざま。巻末の資料も日々の生活に役立つものばかりなので、ぜひ、お手にとってみてください。ちなみに今年もこの本をもとにした「記念日・歳時記カレンダー」を発行する予定ですので、そちらもお楽しみに!
(創元社 古賀)