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リモートワークの流れは逆戻りしない 「リモートファースト」へのノウハウと課題を紹介、ワーカーへのアドバイス

記事:明石書店

『リモートワーク――チームが結束する次世代型メソッド』(明石書店)の著者、リセット・サザーランド氏
『リモートワーク――チームが結束する次世代型メソッド』(明石書店)の著者、リセット・サザーランド氏

 私の住むカリフォルニア州では、コロナ禍による外出自粛が半年近くも続いている。シリコンバレーでは、多くのIT関連企業がリモートワークとなり、通勤ラッシュが激減した。以前は、Facebookやgoogleをはじめとして多くの企業が社員の送迎をする真っ黒なWifi完備の大型バスが、早朝のフリーウェイでいくつも見られたが、そんなバスもあまり見受けられなくなった。

 コロナ感染者が増える一方のアメリカでは、現在、働く人の半数以上が少なくとも週に何日かはリモートワークをしていると言われている。その割合は若い人や、いわゆるナレッジワーカー(知識労働者)ではさらに高くなっている。コロナ前では10%程度だったというから、とても大きな増加である。

スキルとツール、そしてマインドセット

 本書の著者リセット・サザーランドは、ドイツ生まれのアメリカ人で現在オランダに住みながら、様々なメディアを通して2006年よりリモートワークを推進している第一人者だ。2017年11月にはTED×トークで情熱的にリモートワークの素晴らしさを語っている。本書では多数のプロフェッショナル――ソフトウェア開発者、企業CEO、人事担当者、NASA宇宙開発局、神経学者にいたるまで――に行ったインタビューを紹介しながら、リモートワークのノウハウを指南している。

 リモートワークは「だれが、どこで、何が、いつ必要なのか」という初心者への問いかけに始まる本書には、リモートワーカーがスキルやツールだけでなく精神的なマインドセットをも整えるための実践ガイド、さらにはより結束力のあるリモートチームを作って効果的にマネジメントするための経営者へのアドバイスがまとめられている。

 リモートワークのよさは、働く人にとって自分の望むライフスタイルを設計するための融通性が高まることだとリセットは言う。そしてそれがワークライフフュージョン(生活と仕事の融合)をもたらすのだと。また彼女はリモートファーストという考え方を経営者に提唱している。天候不良、交通機関の遅延、子どもの病気、といった不可避のできごと(まさに今のコロナ禍!)に備えて、リモートワークという選択肢を常日頃から用意しておくことが、これからの企業に必要だと述べている。

 コンピュータ、高速Wifi、ヘッドセット、ウェブカメラがあれば、いつでもどこでもリモートワークが始められるが、さらに効果的にするためには、様々な新しいテクノロジーが利用できる。タスクボードを使って業務の進捗状況を可視化したり、ロボット式の機材に自分の顔を映して職場の会議に参加したり、オンライン・バーチャル・フロアプランを使って、自分の分身アバターが出勤して画面上で他の社員のアバターと会話するアプリまであると言う。

 一方、リモートワークには難しい点もある。リモートチームの仲間意識の構築、仕事のオン・オフの切り替え、育児をしながらの働き方……。こうした課題についても著者は具体的な対処法を提案してくれる。この一冊で、リモートワークへの移行について全てが学べると言っても過言ではないだろう。

ワークライフフュージョンを求めて

 『ニューヨークタイムズ』によれば、今年6月にアメリカの調査会社が現在リモートワークをしている人1066人を対象にしたアンケートで、コロナ感染収束後も、毎日あるいは週の何日かでもリモートワークを続けたいと答えた人が87パーセントにも上ると言う。

 私はアメリカに移住して40年になるが、リモートワークのおかげで仕事を続けることができた。始めた当初は、まだファックスでのやりとりが主で、夜中に日本からファックスが流れてくる音でよく目が覚めたものだ。自宅で働くための自分のルール作りもした。

 パジャマでは仕事部屋へ行かないこと。顔を洗い、歯を磨いてから「出勤」すること。それから仕事部屋をキッチンから一番離れた場所に設置し、できるだけ、おやつを求めて足がキッチンへと向かわないようにした。その間、二人の子どもが次々に生まれたが、ベビーシッターに家に来てもらって世話をしてもらった。もう子どもに仕事の邪魔をされることはなくなったが、代わりに要求の多い飼い猫がコンピュータを覗きにやって来る。

 本書の共訳者の山岡さんは、まだ20代後半の若い翻訳者だが、翻訳に専念する前はアメリカのシリコンバレーのアップル社で3年間リモートワークをしていた。リモートワークのメリットは通勤時間0分で化粧もせずにすぐに仕事に取りかかれるところと、仕事で辛いことがあったら、好きな香りのアロマを焚いたり、BGMを流したり、時には鼻歌を歌ったりと、周りの目を気にせずにストレス発散ができたところだと言う。一方、仕事モードへの脳のスイッチの切り替えに苦心したそうだ。

 コロナ感染が収束しても、もう私たちの働き方は逆戻りできない。リモートワークと職場勤務のバランスをうまく取りながら、ワークとライフのフュージョンを目指していくことになるだろう。

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