「お、ねだん以上。」 ニトリはなぜ、不況下でも強いのか
記事:大和書房
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ニトリは1967年にたった1店舗、大きさも30坪しかなく、100万円の借金を抱えた状態の家具屋からスタートし、今日に至るまで成長・発展を続けてきましたが、運命的な転換点となったのが1972年、アメリカへの視察旅行でした。この視察旅行が、私と会社の運命を大きく変えることになります。
ロサンゼルスとサンフランシスコの家具店をいくつか視察し、私は人生観が覆るほどの衝撃を受けました。日本はアメリカに少なくとも50年は遅れている。アメリカと比べると日本の暮らしはまだまだ貧しい。私はそう痛感し、「私の使命は家具を売って儲けることじゃない。日本人の暮らしをアメリカ並みに豊かにすることに自分の一生を捧げて、それを生きがいにしよう」と決意しました。
会社である以上、利益を追求するのは当然です。しかし、それだけでは必ず限界が訪れます。利益優先になると会社本位になり、お客様の視点を忘れてしまうからです。会社にとって何よりも大切なのは、「世のため、人のため」というロマンなのです。そして、なんとしてもロマンを実現するという強い覚悟です。
ニトリはずっとロマンを大切にしてきました。私が初めてアメリカを訪れたときに芽生えた、「欧米並みの住まいの豊かさを、日本の人々に提供する」というロマンは、今では日本だけでなく世界中の人々を対象に、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」というロマンであり企業理念として会社に根づいています。このロマンが会社の存在意義を決定づけ、それに共感する社員たちの躍進の原動力になっているのです。
「世のため、人のために貢献する」という社会的使命を根底としたロマンは、目指すべき状態です。だからこそ、何かひとつの事業が成功したから達成したというようなゴールはありません。そうではなく、ロマンの実現を目指して追い求め続けていくのが正しい姿です。ですから終わりはありません。
そのときに、ロマンと並んで大事なのが、ビジョンです。目標とする数字と、それを達成するまでの期限を入れた、具体的な数値目標です。大きなロマンを実現に近づけるためには、ビジョンが必要なのです。
ビジョンをもつことではじめて、それまでは漠然としていたロマンが形をもちます。壮大なロマンをなにがなんでも実現してみせる。そのために、長期にわたって高い目標を設定し、達成に向けて仕事をしていると、小手先の改良・改善を積み重ねていくだけではなく、常識や先入観を捨て、あらゆる情報を採り入れて、イノベーションを起こさざるをえなくなります。
ビジョンは、長期かつ達成不可能とも思えるほど、大きなものでなければなりません。簡単に手の届く範囲にある目標を、ビジョンとは呼びません。基本は“100倍発想”です。
3年、5年先といった近い未来しか見ずに、今自分が立っている位置をベースに計画を立てたとしたら、たとえそれが実現したとしても、見える景色にあまり変わりはありません。しかし、20年、30年先を見据え、今の100倍の目標を立てるという話になると、達成したときには今とはまったく違う景色が見えてきます。
今までと同じことをしていては決して達成できないほど大きな目標を掲げて、そこに向かって突き進んでいく、それがビジョンというものです。ビジョン達成のためには、常識の呪縛から抜け出さなければならないのです。
たとえていうなら、それまで足で歩いていたものを、自転車に乗り換え、さらに自動車に乗り換え、そこからさらに飛行機に、さらにロケットに乗り換えるような異次元の発想の転換が必要になります。こうした発想の転換がなければ、企業の成長は頭打ちとなってしまうでしょう。
ニトリがまだ2店舗だった1972年、私は第1期「30 カ年経営計画」を作り、「2002年までに100店舗に増やし、年間売上高を1000億円にする」という目標を社内外に宣言しました。これがニトリが最初に設定したビジョンです。当時の売上高は1億6000万円ほどでした。実現不可能だと誰もが思ったことでしょう。しかし31年後の2003年に、1年遅れではありますが、これを達成しました。
そのために私たちが行なってきたのが、「未来から逆算し、今日一日、すべきことを実行する」ということでした。まずはビジョンを「30年、10年、3年、1年」という形に分解していきます。たとえば、ニトリであれば、2002年までの30年を10年ごとに大きく分け、最初に店づくり、次に人づくり、最後に商品と仕組みづくりと定めました。
それを3年、1年、さらに年間計画は週ごとに分け、「その週に何をするのか」という具体的な行動計画にする。そして、行動計画をもとに、今日一日、すべきことを、徹底実行していく。計画通りにいかないなど問題があれば、その根本原因が何か、事実を調査したうえで対策を決め、即座に行動に移しました。
このように、ビジョンから逆算して行動するということを、30年以上、ひたむきに積み重ねていったからこそ、当時は不可能としか思えなかった大きなビジョンを達成できたのです。
そして、2003年をスタート地点とする第2期「30カ年経営計画」で、私は、「2032年までに3000店舗、売上高3兆円」というビジョンを立てました。目標が高ければ高いほど、現実がなかなか追いついてこないのは確かです。しかし、その高い目標と現実を一致させることができれば、日本はもとより世界の人々に住まいの豊かさを提供するというロマンに近づくはずです。
大切なことは、とにかくビジョン達成に向かって前進することです。