名将・野村克也監督が語った『リーダー論』 「人を動かす言葉、哲学を持て」
記事:大和書房
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「リーダーは人を動かす言葉を持て」
野村監督のお話をうかがったなかで特に印象に残っているのは「言葉」についての深い洞察と強い想いです。かつてヤクルトスワローズの監督として招かれた際、勝利に向けた闘いの第一歩として、野村監督が選手たちに「語る」ことから始めた、というのは有名すぎるほど有名な逸話でしょう。
感動させる言葉を持ち、心を射抜け、それができるのがリーダーだ──。監督は、本を読み、先人から学び、考え、経験と結びつけながらそれを血肉にしていかれたのでしょう。「言葉を磨かなくてはいけない」という言葉の奥にはいつも、監督のご自身にも向けられた想いがありました。そして、その想いこそが、リーダーの持つべき「哲学」であり、それを伝えることで人が動き、育つのでしょう。
「判断は頭でするもの、決断はハートでするもの」
チームという組織を率いることについて監督はこのようにもおっしゃっておられました。部分を見て判断するのがコーチだとすれば、監督は全体を見て決断する。監督、つまりリーダーは、野球でいえばバッティング、ピッチング、守備、戦略といったすべてをつかさどる脳の役割を担うのであり、それらをもとに決断するときに不可欠なのは、「これに賭ける」という気持ちなのだと。それが「決断はハートでする」という言葉に表れています。そして、そのハートを支えるのもまた、「哲学」だと監督はおっしゃりたかったのだと思います。
さまざまな名言で知られる野村監督ですが、人材育成に関する言葉は特に、何度読んでも心を動かされます。なかでも、「監督業とは気づかせ屋である」という言葉には、選手の力を信じてそれを伸ばすことが監督の仕事、という信念が滲んでいます。
監督が「人を育てる」ということに関して語った言葉を本書のなかからいくつか抜き出してみると…。
・教えすぎず、気づかせよ
・耳に痛い言葉こそ真剣に伝えよ
・目標を明確にさせよ
・結果よりプロセスを重視せよ
どれも納得できうなずくことばかりですが、こうした原則のもと、さらにほめること、叱ることに関してこんな考えを実践していたのが、野村監督の名将たる所以でしょう。
・人は叱ってこそ育つ。ただし、「叱る」と「怒る」をはき違えてはいけない
・結果だけで叱らず、「準備したうえでの失敗」はむしろほめよ
・ほめるときは、本人の自己評価より少し上の評価をせよ
そもそもなぜ叱るのか? それは期待しているから、と野村監督は語ります。もっとできるはずなのに、そのレベルに達していないから叱るのだと。
自分をここまで見てくれ、真剣に導いてくれると感じさせてくれるリーダーになら、なるほど人はついていくでしょうし、その教えを守り成長していくことでしょう。
監督が語るのはいつも野球についてのことでしたが、その教えはどんな職種や組織についても言えることです。いま、世界は未曽有の危機に見舞われ、激動の中でともすれば私たちは考え方、生き方の軸を見失いがちですが、こんな日々だからこそ、野村監督の熱くて深い洞察に裏打ちされた「哲学」を、参考にできるのではないでしょうか。
働き方、組織の在り方、行動様式、人と人との距離の取りかた──さまざまなことが変わっても揺るがない「覚悟」と「哲学」を見出すために、ぜひこの一冊を手に取っていただきたいと思います。