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紛争、貧困…領域を拡大し、変化する「地球環境問題」―― 『ひと目でわかる地球環境のしくみとはたらき図鑑』

記事:創元社

『ひと目でわかる地球環境のしくみとはたらき図鑑』
『ひと目でわかる地球環境のしくみとはたらき図鑑』

「環境問題」が扱う範囲の拡大

 環境保全への意識づけや取り組みは、日本ではおそらく高度経済成長期の公害問題に端を発し、人間活動の影響を受ける自然環境問題へ、さらにグローバル化が進んで、世界規模での地球環境問題へと広がっていったと言ってよいだろう。

 「公害」問題は、人々の生活や健康を害する企業活動が、「自然環境」問題は、地球の自然のサイクルや動植物の生存に悪影響を及ぼす人間活動全般が検討対象となっていくように、被害と原因(と考えられる)事物の範囲もどんどん広がってきた。

 そしてこれらの段階と、現在のSDGs(*注)に示されるような地球環境問題で最も異なるのは、自然科学・技術の分野だけにとどまらず、経済、教育、社会、生活水準などにおける格差の是正やジェンダー、人種などによる差別の撤廃、生物種だけでなく人間社会においても文化や価値観の多様性を維持することなどが視野に入れられている点だろう。

本書192-193頁。SDGsで示される17のゴール(目標)が紹介されている。
本書192-193頁。SDGsで示される17のゴール(目標)が紹介されている。

原因のさらに深みへ

 かつて私たちが小論文や検定試験で扱っていたことといえば、いかに温室効果ガスの排出量を減らすか、どのエネルギーがもっとも環境にやさしく安全なのかといった物理的な原因に関する議論ばかりだった。しかし今や、その地球環境破壊の根底に、政情不安や貧困、紛争、さまざまな格差や差別が存在していることが、国際的に認識され始めている。

 自然科学とテクノロジーにおける問題解決ばかりでなく、あらゆる人にとって、あらゆる植物や動物にとって、持続可能な環境をつくることが、ゆくゆくは「地球環境の維持」を可能にするという考え方が広まりつつあるのだ。

 本書の構成もその傾向を反映するものになっている。地球温暖化や大気・海洋汚染、森林伐採、生物多様性の危機などといった、直接の自然環境破壊はもちろんのこと、人口爆発や食糧需要の増加、都市化、工業化、農業・漁業方式など、環境破壊の原因になりうる産業社会の変化に加え、基礎教育や衛生・医療設備の格差、政治腐敗やテロリズムと難民問題などのテーマも盛り込まれている。

本書106-107頁。教育格差には貧困やジェンダーの不平等も関連している。
本書106-107頁。教育格差には貧困やジェンダーの不平等も関連している。

本書114-115頁。テロ問題は一見、環境破壊と無関係に思われるが、人々の命や生活を脅かすのみならず、福祉や環境対策の財源が削られる一因にもなりうる。
本書114-115頁。テロ問題は一見、環境破壊と無関係に思われるが、人々の命や生活を脅かすのみならず、福祉や環境対策の財源が削られる一因にもなりうる。

 もちろん、クリーンエネルギーやプラスチックゴミ削減などの直接的な課題にも当然取り組まなければならない。しかし今や、地球の裏側の貧困やテロや紛争、難民、格差や暴力を考慮しなければ、あるいは人間以外の生物種に平等に思いを致さなければ、本当の意味で地球環境問題に取り組んだとはいえないのかもしれない。

地球環境の維持から、持続可能社会の実現へ

 このような「地球環境問題」の捉え方の変化や扱う領域の拡大に伴い、ビジネスにおける環境保護の取り組みについても変化が起こっている。

 これまでは、エネルギーを大量に消費したり、自然環境を大きく変化させたり、生産過程で有害物質を排出する業種の企業が中心となって、(自然)環境への負荷を軽減する施策が進められていた印象があるが、近年ではそうした業種以外の企業や組織でも、「SDGs」に準拠した施策を行っているところが増えてきている。

 雇用機会や管理職登用、賃金におけるジェンダー平等や、マイノリティとされるあらゆる集団の権利の保障、貧困・格差の解決、国際社会における各国間のエネルギーバランス、テロとの戦いと難民の受け入れ……。これらは一見別個の問題に思われるし、地球温暖化やプラスチック汚染とは関係ないことのように思われる。しかし、「持続可能な社会」という概念の中では、すべて繋がっているのである。(これについては、本サイトに以前寄せた拙稿でも触れた)

 ひとつのテーマを掘り下げる専門書とは違って、図鑑はひとつひとつの解説は簡潔だが、広範なテーマを扱い、多角的な視点を持つことを教えてくれる。本書は数多くの「地球環境問題本」のひとつだが、その問題をより現代的に、多角的に論じることにおいて役立つだろう。

*注)SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、2015年の国連サミットで採択されたアジェンダに記載されている、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。

(創元社編集局 小野紗也香)

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