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生命の起源と地球外生命の可能性 ハビタブルな宇宙が示すもの(後編)

記事:春秋社

最初に発見されたペガスス座51番星のホット・ジュピターの想像図/出典:Wikimedia Commons (illustration by me user debivort may 07)
最初に発見されたペガスス座51番星のホット・ジュピターの想像図/出典:Wikimedia Commons (illustration by me user debivort may 07)

多彩で幻惑的な系外惑星

 『ハビタブルな宇宙』では、ブラックホール、ダークマター、ビッグバンなど、「天空の科学」を紹介し、次に「私につながる科学」として、地球科学、生命の進化と起源などを述べている。ばらばらな話に見えるかもしれないが、本書の後半で、それらが交錯する系外惑星、地球外生命の話につながるように意図した。ここでは、その後半部分の一端を紹介したい。

 最初の系外惑星は、中心星の至近距離(木星と太陽の距離の1/100)を4日間で周回する巨大惑星「ホット・ジュピター」だった。 それは誰も想像したことがない代物だった。

 系外惑星の発見数は2003年には100個、ノーベル賞授与の2019年までに4000個に達した。その勢いもすさまじいが、異形とも言える多彩な惑星の数々が研究者を興奮させ、魅了した。彗星や小惑星のような長楕円軌道を描く巨大惑星(太陽系では惑星軌道はほぼ円だ)。恒星の自転方向とは逆向きにまわるものや連星の外側をまわる巨大惑星も発見された。発見されたうちの半数の惑星系は「スーパーアース」(地球より若干大きく、おそらく地球と同じように岩石を主体とした惑星)がいくつも編隊をなして中心星のそばを回るものだ。

 じつは1995年よりもずっと前に、ホット・ジュピターを発見するのに十分な観測精度が達成されていた。問題は私たちの固定観念だった。1995年以前は太陽系しか知らなかったため、一般化しようにも、どの方向に広げていいかわからず、ホット・ジュピターのデータは得られていても認識できなかったのだ。最初に発見した研究者は惑星の専門家ではなかったので、固定観念にとらわれずに快挙をなし得たのだろう。

 系外惑星の発見の歴史は、ひとつのサンプルしかない場合の危険性を私たちに教えてくれる。

宇宙から生命へ

 観測精度はみるみる上がっていき、15年後の2010年頃には木星よりずっと小さいスーパーアースが発見されるようになった。銀河系の恒星の半数以上にはスーパーアースもしくは地球サイズ惑星が存在することが確実になった。

 2016年に太陽の隣の恒星のハビタブルゾーンに地球サイズ惑星、2017年には7つの地球サイズの惑星がまわる惑星系、2019年には大気中に水蒸気の存在が確認されたスーパーアースがハビタブルゾーンに発見された。生命を宿す惑星発見に向けた新しいレースの始まりだった。だが、それは地球そっくりの「第二の地球」の探索という方向とは違った。

 これらの中心星は太陽より軽く、暗い赤外線を発する赤色矮星だ。その暗さゆえ、ハビタブルゾーンは中心星のそばにあり、そこの惑星では(地球と月の関係と同じように)常に同じ面に中心星光があたり、裏側にはあたらない。赤色矮星が発する紫外線やX線は意外に強く、それらは表側のみに強烈に襲いかかる。そこは、地球とは全く異なる世界のはずだ。

 現在の主な観測方法では、中心星に近い惑星ほど発見しやすいため、現状ではハビタブルゾーンの地球型惑星はこのような赤色矮星でしか検出できない。

 一方、地球でも深海や地下で地熱をエネルギーにした生態系が発見されたことで、地球生命の概念が大きく広がっていた。ましてや、宇宙の生命は多様な仕組みをもっているはずなので、生命存在条件は、水・有機物の存在、継続的なエネルギー供給くらいに絞って考えようという意見が強くなった。

 赤色矮星のハビタブルゾーンの惑星は「異界」だとしても、この条件を満たす。

 太陽系内でも2005年に土星衛星エンケラドスの表面で水蒸気が有機物とともに噴出していることが、土星探査機によって偶然発見された。エンケラドスの表面は凍りついているが、地下に温泉の海があることが確実になった。ここも上記の条件を満たす。

土星の衛星エンケラドスの氷表面からの有機物まじりの氷と水蒸気の噴出の実際の写真(色は着色)。土星探査機カッシーニが撮影した。(NASA/JPL/Space Science Institute)
土星の衛星エンケラドスの氷表面からの有機物まじりの氷と水蒸気の噴出の実際の写真(色は着色)。土星探査機カッシーニが撮影した。(NASA/JPL/Space Science Institute)

 かくして、研究者の興味は「第二の地球」というイメージから自然に離れ、異界で生命を探す方向にシフトした。なにしろ赤色矮星をまわる惑星はすでに観測可能だし、エンケラドス再訪もできるのだ。遠い未来を空想するより、何が入っているかわからない玉手箱のデータ取得が先だ。

 ここで大きな問題となるのは、私たちが地球の生命しか知らないことだ。地球では微生物も植物も人間を含む動物も、みな同じ遺伝システム、同じアミノ酸で作られた細胞を持つ同じ系統の生命である。遥か昔にいた共通の祖先が様々な方向に進化していって、現在の微生物、植物、動物に分かれただけなのだ。

 一系統の生命しか知らない私たちは異界の生命を認識することができるのだろうか。そもそも生命とは何なのか。私たちは系外惑星発見の歴史から、ひとつのサンプルしかない場合の危険性を身にしみて知っている。

 しかしながらデータはすでに私たちに届いており、今後ますます増えていく。この問題に研究者たちはどういう戦略で立ち向かおうとしているのか。ここで紙幅も尽きたので、その先については『ハビタブルな宇宙』を見てもらえればと思う。

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