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真言とは何か? 言葉からみた空海の世界観『訳注 声字実相義』

金剛三昧院(提供:松長有慶)

日常に隠された神仏のメッセージ

 『訳注 声字実相義』は、「もとになる漢文を、まず【現代表現】に改めて提示し、ついで【読み下し文】と【原漢文】を加え、さらに原文中の難解な用語を解説する【用語釈】を付す四段の構成からなる。ただし必要に応じて、【要旨】、【解説】などを付け加えた」形式となっている。

 最初に『声字実相義』の主旨を、その冒頭の【要旨】から確認しておきたい。

 言葉とか文字は、一般には人間の意志とか感情を他に伝達する目的をもって日常的に使われているように思われている。しかしよく考えてみると、言葉とか文字は真理そのもの、すなわち聖なる世界のありさまを、世俗の世界に住む人々に直接的に伝達する手段でもある、という受け止め方もある。ではわれわれ現世に生きる者が、聖なる世界からの発信を誤りなく受け止めるにはどうすればよいか。われわれが普段の生活の中で特別な意識を持たずに接している物や声、香りや味、触感、考える対象等あらゆるものの中に、神仏のメッセージが密かに組み込まれている。そういう発想の転換を『声字義』は要請している。(30-31ページ)

 空海は冒頭の段階で、言葉だけでなく、私たちが触れるすべてのものに、仏のメッセージが組み込まれていることを示している。さらにいえば、触れるものすべてが大日如来の身体、言葉、心の三つが現実化したものであり、人間も動物も自然界に至るまで平等にそなえているとして、世俗の世界と聖なる世界がイコールという密教の世界観を示している。

「声字実相」の理由

 その典拠として、空海は、密教経典『大日経』より「等正覚の真言の 言と名と成立との相は、因陀羅宗の如くして、諸の義理成就せり。」の詩をあげ、密教的な解釈を加えていく。その部分の現代語訳を見てみよう。

 頌の最初に「等正覚」というのは、時間と空間を超越した法身仏の身密に当たる。この身密はその数が限りない。このことについては、『即身義』の中で説明したとおりである。ここで身密というのは「実相」に他ならない。次に「真言」とは、これは「声」のことである。声は語密に当たる。次に「言と名」、これは字のことである。言葉があって、二語構成の言葉すなわち名が存在する。この名とは「字」のことである。このように解釈すると、以上に引用した一頌の中に、「声字実相」がすべて収められていることになる。(64ページ)
 また一字について同様のことを述べれば、口を開いて息を吐く時に、阿という声が出る。この阿という字はサンスクリット語の最初の文字すなわち字母であり、これがすなわち「声」である。この阿の声は何の名を呼ぶかといえば、法身の本源的なコトバと繋がる「字」を表している。すなわちこれが「声字」である。法身はどういう意味を表すかといえば、いわゆる法身とは、一切の存在がすべて本来的に生とか滅を繰り返すものではない(本不生)という意味を持つ。これが「実相」である。(65ページ)

 このように、真理そのものを表す「法身仏」(大日如来)の身体と言葉に結びつけて、書名「声字実相」でもある、音声や文字の言葉(声字)が真実のあらわれ(実相)であることを論証するのである。

真言とは何か

 最後に空海が開いた真言宗の「真言」についての解説を見てみよう。真言とは、妄語(まやかしの言葉)に対する言葉である。仏教では、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天の6つの苦しみの世界に、声聞・縁覚・菩薩・仏という4つの仏教の世界をあわせて10の世界を立てるが、仏の世界の言葉だけが真実の言葉であるとする。そして、次のように説明している。

 真言はあらゆる存在の本質を間違わず、偽りなく表現している。それ故に真言という。……字母というのは、サンスクリット語のア字(a)から始まりカ字(ha)に終わる文字などのことである。このア字とかカ字等は法身である大日如来のそれぞれの名前とか秘密の称号である。それだけではなく諸天や竜神や鬼たちにも、この名がある。実はこれら天竜等の名のもとは法身であり、これらの名も同じく法身より出ている。あらゆる言語は大日如来より流出して、世間に流布している言となっているに過ぎない。(90-91ページ)

 偽りのない仏の言葉であるから真言であり、それが竜や鬼の名前にも用いられているように、すべてのものは仏から流出して、世間の言葉となっているにすぎないことを説いている。

 阿弥陀仏の限りない無量の救いの光がこの世にあふれているように、空海の説く密教では、この世は真実の言葉で満ちあふれている世界なのである。その常に仏の働きの中にあるという力強い世界観は、新型コロナウィルスの病気や災害に苦しむ現代人にとっても、大きな励みになるであろう。

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