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今、ホットな仏教 〈仏教3.0〉の思いがけない展開(上)

記事:春秋社

『〈仏教3.0〉を哲学する バージョンⅡ』(春秋社)
『〈仏教3.0〉を哲学する バージョンⅡ』(春秋社)

〈仏教3.0〉のひろがり

 2013年秋に『アップデートする仏教』(幻冬舎新書)という風変わりな題の新書版の本が出版された。この本は、長年の法友である山下良道さんと私が、一緒に得度をして僧侶になってから30年あまりの間に、お互いが日本や海外で身をもって経験してきたことを振り返りながら、仏教について話し合った対談がもとになってできあがった。

 その対談の中から〈仏教3.0〉という聞きなれない奇妙な新造語が生まれてきた。「これまでの仏教」から学びつつも、「これからの仏教」を大胆に構想していこうという仏教のバージョンアップを提唱するための、一種のアジテーションの意味を込めた言葉として使われた言葉だった。

 それが効を奏したのかどうか、その後まもなく、この言葉に触発された若いお坊さんたちの手によって、われわれ二人を招いての「〈アップデートする仏教〉を体感しよう!」という体験型ワークショップが、日本各地において開催され、新聞や雑誌でその活動が紹介されるという思いがけない展開があった。

 この学びの集まりは、2014年から2年にわたって計9回実現していちおう終了したのだが、昨年から再び「帰ってきた〈アップデートする仏教〉を体感しよう!」として復活し、まもなくその3回目が初のオンライン上で開かれることになっている。

 さらに思いがけない展開は、哲学者の永井均さんがわれわれの議論に加わり、朝日カルチャーセンター新宿で「〈仏教3.0〉を哲学する」という鼎談講座シリーズが始まったことだ。2014年冬から2019年夏まで6回にわたって行われたそこでのやりとりは『〈仏教3.0〉を哲学する』、『〈仏教3.0〉を哲学する バージョンⅡ』(いずれも春秋社刊)という2冊の書籍として結実した。

 さらに、私や良道さんに大きな影響を与えた曹洞宗の僧侶内山興正老師の著作で長らく絶版になっていた『進みと安らい――自己の世界』がこの鼎談の副産物のような形でサンガから復刊された。そして、われわれ三人にドイツ人禅僧ネルケ無方さんを加えた四人でその老師の本をめぐるリレー講座が朝日カルチャーセンター新宿で4回にわたって開催された。それをもとにして『哲学する仏教――内山興正老師の思索をめぐって』という本が出来上がった(サンガ刊)。

 良道さんとの対談から約8年という時が経過する間に、「〈仏教3.0〉関連本」とでも呼べる書物がこうして5冊も世に出ることになった。因習化して人々の生活になんら宗教的なインパクトを与えていないように見える形骸化した〈仏教1.0〉(「治療行為が行われていない病院」)でもなく、人生上の諸問題への対処法としてその有効性を強調するテクニック的な〈仏教2.0〉(「治療行為はしているが、症状の除去に焦点を当てる対症療法が主になっている病院」)でもない、自己そのもの、人生そのものの問題に根本的なところから取り組む道を示そうとする〈仏教3.0〉(「症状の背後に潜む病因そのものに働きかける根本治療を実践する病院」)のヴィジョンが、仏教を新しい視線で見る一つの可能性を示したからかもしれない。

 仏教はいまのような大きな転換の時代にこそ、ますます活躍が要請されてくるはずであり、それに応えるためにアップデートすべきであるというポジティブなメッセージが共感を読んだのだろうか。

 私と良道さんがそれぞれ独自に模索している仏教のあり方は完全に同じではないにも関わらず、〈仏教3.0〉という一括りの符牒で読んだのは、そこに或る共通の志向性があることを認めたからだった。

〈仏教3.0〉に合流する思想

 私は道元が『正法眼蔵 生死』のなかで「ただわが身をも心をもはなちわすれて、仏のいへになげいれて、仏のかたよりおこなはれて、これにしたがひもてゆくとき、ちからをもいれず、こころをもつひやさずして、生死をはなれ、仏となる。」と説いているように、小さな自我意識主導の頑張りを手放して、仏=大自然のおのずからなる働きを迎え入れ、まかせることで姿勢も、呼吸も、心も自然に調っていくというのが坐禅の調身・調息・調心のあり方であるということを特に強調して、坐禅の実践や指導をしている。

 良道さんの教える「青空の瞑想」においても、「日常的な自我(「モンキー・マインド」とか「シンキング・マインド」とも呼ばれる)がマウンドから降りて、〈青空としてのわたし〉がリリーフ投手として登場する」という言い方で、瞑想の主体が交代することが重視されている。

 この点で、二人の考えは期せずして一致していたのである。しかも、二人ともそういうラディカルな交代が、修行の果てに起こるのを期待するのではなく、そもそもそれが起こらなければ坐禅も瞑想も始まらないという前提で、具体的な実践のやり方や指導法を探究していたことも、共通していたのだった。

 〈仏教3.0〉の根幹に関わる、坐禅や瞑想の主体という問題をさらに深く参究していく上で、決定的な役割を果たしたのが哲学者永井均さんだった。永井さんとのやり取りのおかげで〈仏教3.0〉はさらに鍛えられ、その眼前に新たな展望が開けたのだった。(続く)

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