本と対極の動画に挑戦 YouTubeで出来たての本を開封する晶文社 出版社のウェブ発信(下)
記事:じんぶん堂企画室
記事:じんぶん堂企画室
――今年9月14日に晶文社YouTubeチャンネルを開設されました。なぜ、YouTubeを?
吉川 本そのもののよさというのは、実際に読んで味わっていただくしかないんですよね。じゃあ、それ以外のことをYouTubeでやってみようか、YouTubeだからこそできることがひょっとしてあるんじゃないか、それを試してみたい、と思いました。たとえば、出版の舞台裏を見せたり、担当編集が思いを語ったり。
また、こういう動画メディアを持っておくと、いろいろなことに臨機応変に対応できるようになるかもしれない、とも考えました。
――9月16日に消費税の総額表示義務化について動画を投稿されましたね。
吉川 チャンネル開設直後にあの問題がたまたま起きました。それがなぜ問題になるのかということを知ってもらいたかったのと、弊社の見解も提示しておきたかったので、急遽、編集長の安藤に喋らせたんです(YouTube動画はこちら)。
同じ内容を文章で発表することもできるでしょうが、YouTubeには速報性と拡散力がある。チャンネルを開設することで、政情に臨機応変にコミットしていく準備もできるな、と思いました。
YouTubeチャンネル開設の直接的なきっかけとしては、私、この8月に入社したんですが、みんながやりたいと思っていたところへ経験者が入ってきた、ということもあるんじゃないかと思います。もともと文筆家の山本貴光くんと共同で「哲学の劇場」というYouTubeチャンネルを運営していました。
「晶文社ってこんな出版社なんだ。変わってるけど、いいね。」なんて思ってもらえたらうれしいですね。
――1回目は、坂口恭平さんの著作『自分の薬をつくる』が印刷所から届き、荷物を開封する動画ですね。その後も開封動画が続いていますが、これが基本形ですか?
吉川 はい。YouTubeでは、「開封動画」という言葉が通じるくらい、この種の動画がたくさんあるんです。届いた商品やプレゼントを開封するだけなんですが、たいへん人気があります。子どものおもちゃの開封動画とか、子どもたちは食い入るように見るそうですよ(笑)
――印刷所から本当に届いた時に撮影しているのですか? 担当編集さんのドキドキ感が伝わってきます。
吉川 ほぼ、実際に届いたときです。誤植が見つかるかもしれないですから、ドキドキします。正直見たくない、と言う編集部員もいます。
――ひとつの投稿の制作にはどのくらい時間をかけているのですか?
吉川 撮影に30分くらい、動画編集に2~4時間でしょうか。現在、月に数点の新刊を出していますが、できれば新刊すべてでやっていきたいと思います。
――始めて良かったと思うことは?
吉川 本の伝統的な営業や売り方とは違うやり方に挑戦してみたい、という気持ちは編集部にも、私にもありました。どんな新しいことができるかなという楽しさがあります。コロナ禍以降ますます社会のオンライン化は進んでいるので、それもひとつのきっかけになっているかもしれません。
YouTubeとは別のプロジェクトになりますが、晶文社では有料動画配信サービスmiyocca(https://miyocca.com/)も緊急事態宣言による自粛期間の間にスタートしています。こちらは動画配信に特化したプラットフォームを形成しようという目標のもとで運営がなされていて、書籍関連では青山ブックセンターさん、八重洲ブックセンターさんなどと提携しつつ、書店で行ったイベントを動画配信からアーカイブ化まで行えるような仕組みづくりを進めているところです。
――動画について他の出版社から反応はありますか?
吉川 そもそも開封動画という概念に驚かれることが多いですね。驚かれると、うれしい。先日、講談社サイエンティフィクさんが「晶文社さんの開封動画にならい、開封動画を撮ってみました」と、新刊の開封動画をTwitterに投稿されていました(投稿はこちら)。「本の開封動画」が一般名詞になったら楽しいなと思いますし、その本家本元が晶文社ということになれば、なお、いいんじゃないかと。当たり前ですが、本を出せば必ず開封するわけですから、ずっと続けていける内容です。
本は、存在も知らない状態から手にとってもらうまで、ゼロから1を埋めるのが、すごく大変です。動画のもつ情動喚起力はそれを埋められるんじゃないかと。観てくれた人にアクションを起こしてもらう、つまり、実際に本を手にとってもらうためにどう演出できるか、試行錯誤中です。
葛生 ポッドキャストの開設もただいま準備中です。YouTubeは、しっかりと構成・編集されたもの。ポッドキャストは、それとはまた別の、まったりのんびりという感じで。
吉川 メディアに応じたPRができれば、と思っています。このあいだ、伊藤亜紗さん(東京工業大学リベラルアーツセンター准教授)が、「晶文社の尖りっぷりが凝縮された開封動画シリーズ」と言ってくださいました。弊社マスコットのサイの角のようにエッジが立っているということですから、こういう感想はうれしいですね。
――noteでも継続的に発信されていますね。
葛生 もともと、晶文社のオリジナルウェブ連載を掲載する「スクラップブック」というページがあったのですが、晶文社のコアなファンより遠くの人には届いていない、という懸念がありました。もっと広く届けたいと考えると、もう少しポピュラリティのあるメデイアが必要になり、今年2月からnoteを始めました。
――始めて良かった点は?
葛生 新刊情報、書評、イベントの告知、ウェブ連載……出したい情報が次から次に出てきますが、会社のホームページではなかなか小回りがきかないところもあります。noteはアカウントとパスワードを全員が共有しているので、好きなときにすぐアップできる。アップした情報が晶文社のアーカイブにもなりますし。
吉川 noteってブログとソーシャルメディアが混ざったようなものなので、流しやすいし、読者も読みやすい。この数年、晶文社は実にいろいろな本を出していて、読者層を広げて年齢層も若くなるという傾向にあります。そういう意味ではnoteは合っているかもしれない。
葛生 noteをフォローしてくださる方たちは若い方たちが多くて、どうやら、晶文社という名前ではなく、イベント情報や、著者の名前でたどりついてるという印象があります。
――これからどんな展開を考えていますか?
葛生 今は読者さん向けに情報を出していますが、今後は書店さん向けのお役立ち情報みたいなものも考えています。新刊情報や、書店でのフェア情報などの必要情報と、それからまだ構想中ですが、もう少し掘り下げた情報なども、書店さん向けに発信していきたいと思います。