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新しいアイデアを潰さない、個人を生かす柔軟な組織へ――カーネギー『人を生かす組織』に学ぶ

記事:創元社

人と関わり仕事をする上で、必要な基本を説く

 本書は全6パート(経営管理、計画化、組織化、指導、調整と統制、結論)で構成され、いかに経営をスムーズに行ない成果を上げるかについて説いている。と聞くと、「お堅そう」に聞こえるかもしれないが、そんなことはない。

 あらゆる組織は、一人一人の人間の集まりだ。人間の習性はそう変わらない、と考えると、組織活動の功罪も昔からそう変わらないと言える。IT化やDXが顕著に進む昨今、コミュニケーション速度は加速する一方だが、あくまでも使っているのは「人」。人のスタンスが変わらない限り、いくら便利なアイテムを手にしても本当の意味で使いこなすことはできない。

 46年の時を経ても、『人を生かす組織』は今にも通じる組織の基本を教えてくれる。特に経営者や、部下を持つビジネスパーソンには欠かせないだろう。また、部下を持たない一社員にとっても、自身の行動を顧み、発展させるヒントが満載だ。「個」の時代とはいえ、誰かと手を取り合い、何かをつくりあげていく人間の習性もまたそう簡単には消えないのならば、本書はこれからもずっと、働く人にヒントを与えつづけてくれるはずだ。

私たちは「やってみる」ことより「粗探し」を教えられている

 PART2の「計画化」より、創造力や意見交換の大切さを説いている箇所を挙げたいと思う。

 アイデアをどんどん生み出すのも、創造力を封じてしまうのも、心構え一つである。人間の頭は二つの方向に働く。比較選択を行ない判断する考え、ないしは分析する考えと、想像したり予想したりアイデアを生み出したりする創造的な考えである。
 判断することばかり考えると、その人間は時として消極的になる。彼の関心が、新しいアイデアを生み出すことより、むしろアイデアが役に立たない理由を明らかにすることにあるからだ。判断する考えは子供の頃からずっと育ってきたもので、その間常に創造的な考えは封じ込められている。私たちは「やってみる」ことより「粗探し」を教えられている。部下が創造力を持つようにするには、積極的な態度を教え込むことである。私たちは熱意を持つとともに楽観的にならなければならない。新しいアイデアについて考える時は、それが役に立つかどうかの判断を下すより先に、役立つようにできるあらゆる方法を考えるべきである。

 実際組織において、画期的な企画や課題に対して、効果的なリスクヘッジを考えるのではなく、気づけば単なる「粗探し」を行っていた…なんてことも、あるのではないだろうか。無謀と挑戦、粗探しと危機管理、このあたりのバランスは非常に難しい。しかし、上記のように「判断」することだけを続ければ、仕事は無味乾燥としたものになってしまうかもしれない。

習慣を打破する人になる

 創造力を伸ばす上でのもう一つの問題は、たいていの人が新しいアイデアを出すことに対して臆病になることである。自信を持つように仕向けなければ、創造的な働きはまるでできない。部下たちに対する信頼の態度は彼らの自信を強めることができる。
(中略)創造的思考を妨げる主な障害の一つは、周囲を取り巻く習慣や慣例に、とかく順応しやすいことである。服装や言葉や態度が周囲の人たちと違うことを気にするのと同じように、自分の考え方が周囲の人たちと異なることを気にするのである。問題の解決に大いに役立つかもしれないまったく新しいアイデアに従うことは、習慣を打破する人になることである。偉大な発明のほとんどすべてが、同時代の習慣や伝統を無視する勇気を持った人たちによって行なわれている。
 部下に革新的な考えを生み出させるようにするには、どんなに理屈に合わないものでも、部下が出すアイデアを何でもよく聞くことである。「それは使いものにならない」といった結論に一足飛びにいかないで、発案者と一緒にそのアイデアを入念に検討し、その中にメリットがあるかどうか、あるいは、その一部でも使えるかどうかを調べることだ。そしてあなた自身の判断において、アイデアの独創性を評価し、全面的に否定してがっかりさせるようなことはせずに、プラスになるような形で欠点を指摘し、アイデアを出した者を力づけること。

 ここのテキストは特に、カーネギーのイズムを感じさせる。個人による変革も必要と説くが、それを受ける側の姿勢にも言及する。個人が発言しやすい関係、協力しやすい環境を作れと、この本には言いまわしを変えつつ何度も出てくる。

 たとえば「これは費用がかかりすぎる」という代わりに「ジョー、君にこの費用をまかないきれるかな」と言ったほうが効果的である。ジョーは自ら費用の問題を認識し、もっとよい答えを出そうとするだろう。「あえて人と違うことをする」人間は、しばしば非現実的で突飛なアイデアを出すが、上役や同僚の絶え間ない軽視にあって黙殺されることがなければ、いずれは革新的で有望なアイデアを出す可能性があることを決して忘れてはならない。

「私たちはいつもこうやっていた」という言いわけ

 創造力の妨げとなるもう一つの大きな障害は、一度心に決めた概念に頑なに固執する傾向を多くの人が持っていることである。新しいアイデアが自分のアイデアと対立するものであれば、それを丹念に調べる。デール・カーネギーはこう書いている。「いつでも変化に応じられる心構えでいなさい。変化を歓迎しなさい。変化を求めなさい。自分の意見やアイデアを何回でも試練にあわせなければ、あなたの進歩はない」。これは、創造力を組織内で開発しなければならない場合に管理者自身はもちろんのこと部下にも守らせなければならない原則である。「私たちはいつもこうやっていた」という言いわけで新しいアイデアを考え出すことを妨げてはならない。

「私たちはいつもこうやっていた」は、人が最もおちいりやすい思考ではないだろうか。「変化する」ことは、なかなかに難しい。でも、チームであればどうだろう。

 創造的な人間というと、アインシュタインやエジソンのように自分一人で研究をし、アイデアを生み出したり発明したりする人のように想像する人が多い。しかし実際には、多くの創造的概念は共同作業をする集団から生まれている。アイデアの相互作用と交雑が観念構成を促進するのである。
 古いことわざに「三人寄れば文殊の知恵」というのがあり、これを拡大解釈すると、頭数は少ないより多いほうがよいということになるが、これが事実であることは今さら言うまでもない。

 実際、チームで意見交換をすると、小さなアイデアが大きなものへと成長したり、また、盲点だった課題に気づき、掘り下げられたりする。一人では動かせなかったものが、動いたりもする。「私たちはいつもこうやっていた」を作り上げるのも組織であれば、打破できるのも組織。46年の時を経てもなお、活発な意見が行き交う柔軟な組織が求められている。

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