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俳優たちと仕事するときの「黄金ルール」 英国舞台演出家ケイティ・ミッチェルさん

記事:白水社

英国を代表する舞台演出家による、コーチングやチームディレクションの極意! 『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)は、事前準備から本番までの全段階ごと「使えるツール」をもれなく伝授。
英国を代表する舞台演出家による、コーチングやチームディレクションの極意! 『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)は、事前準備から本番までの全段階ごと「使えるツール」をもれなく伝授。

『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)P.162─163より
『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)P.162─163より

俳優について自分の考えを整理する

 稽古場に入ったときにあなたが俳優に抱く印象が、これから彼らとどのように稽古していくかを左右します。例えば、もし「俳優とは気むずかしいものだ」と考えていると、実際には存在しない何か問題を想像して、身構えた態度で稽古場に入っていくでしょう。もし「俳優とはスペシャルな存在だ」と考えていれば、自分が不利な立場なのではないか──自分自身はスペシャルな存在ではないのではないか──と心配しつつ稽古場に入って、彼らを初めから特別扱いしてしまうこともあるでしょう。

 稽古が始まる前に、俳優をどう捉えるか、あなた個人の考えを整理しておきます。今ここでシンプルな形容詞を使って「俳優とは……である」というセンテンスを作ってみましょう。俳優の印象を、あなた自身の考えと同じものも、そうでないものも、思いつくすべて書き出します。自分の書いた形容詞が「想像力豊か」とか「勇敢」といったポジティブなものから、「手がかかる」とか「気むずかしい」といったネガティブなものまでさまざまあることに気がつくでしょう。時には「特別な人間」「芸術家」「本能的」のように、俳優を無比で特別な人種であるとする言葉を使う人もいるでしょう。また別のケースでは「恐ろしい」とか、彼らとどのように仕事をしたらよいか不安をあらわにする単語が出てきたりもするでしょう。俳優を描写するのに使った単語をすべて見てみます。「恐ろしい」「気むずかしい」「特別な人間」といった単語は、自分が未熟に感じられてしまいますし、自分を不利な立場に立たせてしまうので、取りのぞいてしまいましょう。代わりに、俳優と仕事をしやすくする新しい言葉を加えます。シンプルで明確な単語、「大人」や「熟練した職人」とか「信頼できる」などを使います。つねに客観的になるように心がけます。これはプロとしての仕事なのです。

 ほかの職業も同様ですが、俳優という職業には一緒に仕事をするのがむずかしい人も存在していて、稽古場で問題を引き起こします。とある俳優は役柄を不適切に利用して自分自身の痛みを実演して見せようとし、またある者は役者であるという職業家意識に極端にこだわって、近道をして仕事をこなそうとします。演出の場数を多く踏むうちに、いろいろなタイプの問題にも慣れてきて、さらに、キャスティングの段階で特定タイプの俳優を見きわめて避けるとか、稽古場での挑戦的な態度や質問への対処が上手になっていくものです。

 あなた自身が俳優にどういう印象を持つか整理しておくことで、扱いのむずかしい俳優の対応に早い段階から大いに威力を発揮し、健全な精神状態で彼らに相対することができるようになります。経験豊富な熟練の演出家であっても、気むずかしいとか厄介な俳優を──必要であったから、もしくは判断ミスであったとしても──キャスティングしてしまうのは避けられない場合がありますから、それは仕方ないと諦めてください。悪い演出家との経験がしばしば俳優を気むずかしくさせてしまう、ということも事実です。稽古場の雰囲気が思いやりのある、終始一貫して矛盾のない、相手に敬意を持ったものであれば、彼らの衝撃的な態度をやわらげる大きな力となります。

『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)P.266─267より
『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)P.266─267より

 とはいうものの、一緒に仕事をするのはどうしても無理、という人はどこの世界にもいるものです。彼らをどうにか演出しようとしても、ことごとく失敗してしまう。相応しい人物をキャスティングしていなかった。そうした場合は大事な二つのことを思い出してください。第一に、自分の演出プロセスは曲げない──気むずかしい俳優とそれ以外の俳優に対して異なる演出方法を取らないこと。そんなことをすれば、あなたは気むずかしい俳優のみならず、グループ全体の信頼を結果的に失ってしまいます。演出プロセスを一つ変えたところで、気むずかしさは取りのぞかれるものではありません。ですから、自分の武器はそのままに、敬意を持って、誰に対しても終始一貫した態度で相対しましょう。第二に、自分のメンタルスペースを気むずかしい俳優にすべて占領されないこと。自分の頭のなかで彼らが占めるスペースを減らして、その状況下で実現可能と思われることに気持ちを切り替えます。そして他の俳優や、改良できる事柄に集中します。勝てない戦というものもあるのです。

 気むずかしいとか、ネガティブな俳優についてのアドバイスを書きましたが、俳優という職業が、不安を抱えた厄介な人の集まりだと誤解しないでください。俳優の多くは信頼のおける大人です。彼らは芝居の世界観とそこに生きる登場人物を創りあげるために、しっかりと働いてくれます。

サマリー
□自分が俳優をどう捉えるかによって、彼らとの仕事がどのようなものになるか決まってくる。
□稽古場に入る前に、俳優をどう捉えるべきか、自分自身の考えを整理しておく。
□気むずかしい俳優と仕事をする精神的な準備をしておく。

『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)索引より
『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)索引より

俳優と仕事する際の黄金ルール12か条

サマリー
① 忍耐力と長期的な視点で考える力を養う。
② 首尾一貫する。
③ 自分の人気を気にしない。
④ 意見が対立したらテキストを仲介とする。
⑤ 何かが上手くいかないときに短絡的に俳優のせいにしない。
⑥ 自分が間違えたら必ず謝る。
⑦ 誰かを「イライラのはけ口」にしない。
⑧ 俳優に時間のプレッシャーをかけない、そして自分自身も時間を無駄にしない。
⑨ 俳優が観客をどう考えているかに気を配る。
⑩ 俳優の私生活と、仕事/作品の境界線をはっきりさせる。
⑪ 土壇場(時間ぎりぎり)の指示出しは避ける。
⑫ 気丈に振る舞う。

【『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』Chaptre 9「稽古はじめの数日」より】

『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)目次より
『ケイティ・ミッチェルの演出術 舞台俳優と仕事するための14段階式クラフト』(白水社)目次より

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