「このまま客が来なければ、明日の食費が…」 風俗店と35万人の女性が直面したコロナ禍の窮状
記事:筑摩書房
記事:筑摩書房
新型コロナウイルス(Covid-19)は世界の状況を一変させた。
日本でも、感染拡大を受け、二度にわたって「緊急事態宣言」が出され、営業時間の短縮や自粛の要請がおこなわれた。飲食業、販売業、宿泊業、観光業など多岐にわたる業種で経済活動は停滞している。そして、それは、低所得の人や脆弱な状況に置かれている人にとって、収入の減少や失業という形で大きな影響を与えている。
私はふだん、〈もやい〉という認定NPO法人で生活困窮者への相談支援の活動に従事しているが、まさに相談現場も例年にはない緊急事態となっている。
二〇二〇年二月に大規模イベントの自粛要請が出された直後に、そういった大規模イベント等で設営や撤去、警備の仕事をしていた人から収入がなくなったというSOSが届いた。
小中高一斉休校の要請が出されてからはひとり親家庭からの相談が寄せられた。
そして、これらのいずれもが、正社員で働いていた人ではなく、日雇い、派遣、契約、請負、個人事業主など、不安定な働き方をしていた人たちからの相談であった。
二〇二〇年は、非正規で働いていたり、低所得で何とか生計を立てていた人たちの生活が圧迫された一年であったと言えるだろう。
さて、前置きが長くなった。
本書は、コロナ禍で性風俗の世界で働く女性の支援に奔走している著者の激闘の記録である。
著者は二〇一五年に、性風俗の世界で働く女性の無料生活相談、法律相談窓口である「風テラス」をたちあげた。性風俗の世界で働く女性たちの悩みや困りごとについて、LINE、メール、Twitterなど、さまざまなツールで相談に応じている。
寄せられる相談は、借金、離婚、障がい、病気、介護、育児、DV、虐待、生活困窮など、さまざまだが、「コロナ禍」で寄せられた相談は二九二九人(二〇二〇年の一年間で)にものぼる。
四月の緊急事態宣言下では、以前なら一カ月の相談件数だった数字を、一日で上回ってしまう日もあったほどに相談が急増したという。
「所持金が数千円しかない」「貯金が底をついた」「毎日督促の電話がかかってくる」。
「収入が証明できず支援制度の申請ができない」「精神的に追い詰められている」「つらい」「今すぐ死にたい」……。
本書では、弁護士やソーシャルワーカーとのやりとりをベースに、「コロナ禍」で働く場や居場所を失った女性たちのリアルを、まざまざと見せつけられる。
特に、四月の緊急事態宣言時は、毎日のように「夜の街」が感染拡大の原因であるかのようにメディアを通じて連呼され、ある種の「スケープゴート」にされたかのようであった。
実際に、報道などによれば、繁華街の人出は全国的に激減し、閉店や廃業せざるをえなかったお店や業者も多くあると言う。
景気の悪化により転職も難しい。家族との関係が悪かったり、パートナーからのDVがあったり、小さな子どもを抱えるシングルマザーであったり。健康面の不調を抱える人もいる。
性風俗の世界で働く女性の状況の厳しさは想像に難くない。
著者は仲間とともに、相談対応と並行して、署名キャンペーン、クラウドファンディングを通じて窮状を社会に訴え、政策を動かすべくソーシャルアクションをおこなっていく。
著者のソーシャルアクションが実を結ぶのかどうかはまだわからない。「夜の世界に無関心ではいられるが、無関係ではいられない」と著者は説くが、それはまだまだ飛躍があるだろう。
しかし、著者がこの「コロナ禍」で、これまで縁のなかった多くの人々、それは学生から国会議員まで、年齢・性別・職業・社会的立場を問わず、署名や寄付、さまざまな形での後押しを受けたことは事実だろう。そういった「追い風」は、コロナ以前の「風」の世界では考えられなかったと著者は言う。
コロナの終息の目途はたっていない。経済や家計の回復についても同様だ。「風」の世界を包む暗闇は、残念ながらしばらくは晴れそうにない。
コロナ禍で「風」はどこへ向かうのか。著者とその仲間たちの活動に今後も注目したい。
(PR「ちくま」5月号より転載)