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MMK(もててもててこまる)とは ――知られざる海軍士官用語の世界

記事:朝倉書店

MMK(モテテモテテこまる)
イラスト:金子智美
MMK(モテテモテテこまる) イラスト:金子智美

旧日本海軍の士官用語いろいろ

 一般社会と隔絶した集団であり、あらゆることが命令のもとに画一的に行われる集団がある。それは何かと言えば軍隊である。日本には戦前、陸軍と海軍があったが、ここでは海軍の士官用語を取り上げる。

 一八七二年に海軍省が設置され、イギリス式を採用した。翌年からイギリス海軍の教官の指導を受け、ジェントルマン教育が始まった。そのため、海軍は当初からイギリス海軍の精神や用語が入り、英語訛り、あるいは和製英語が使われた。特に海軍士官は日常会話に好んで英語、アルファベットを使った隠語を使用した。エリート意識がそこにはあった。詳細は拙著『集団語の研究上巻』(東京堂出版)を参照のこと。

 海軍は構成員が男ばかりで、普段、外は海ばかりという洋上の戦闘集団だ。たまに上陸が許されたときには花街にくり込むことが多かった。特に士官は性に関することばを下の兵たちに聞かれてはまずいので隠語にして話した。その際、本来の英語とは違う和製英語になった語やアルファベットの頭文字を使用した。

 海軍士官が利用する料亭などは隠語で言い表していた。英語に直訳したり、それを略語にしたりした。

(例)
レス(「レストラン」の略で、料亭)
海軍レス(海軍専用の料亭)
ウエイチング(待合)
チング(待合)
ピーハウ(遊廓。娼婦prostitute の頭文字Pと「ハウス」の略から成る)
エスハウ(置屋・芸者屋。芸者のsinger の頭文字Sと「ハウス」の略から成る)

  次に具体的に各港にあった料亭の隠語を挙げてみよう。

(例)
アルファ(佐世保のいろは楼。「いろは」の「い」はギリシャ語のアルファベットの初めの「α」に当たるから)
(同。いろは楼のそばに小さな川があったから)
(佐世保の万松楼。「川」に対して「山」)
グッド(呉の吉川。吉→良し→グッド)
フラワー(呉の華山。華→花→フラワー)
ロック(呉の岩越。岩は英語でロックだから)
ゴーイング(横須賀のいくよ)
パイン(横須賀の小松。松は英語でパインだから)
フィッシュ(横須賀の魚勝。魚は英語でフィッシュだから)
ホワイト(舞鶴の白糸。白は英語でホワイトだから)

 また、海軍士官は芸者や酌婦など料亭や待合に関係する人を隠語にしていた。

(例)
S(芸者。singer の頭文字から)
コーン(妾。英語concubine の略。「セカンド」とも言う)
ゴッド(女将。女将→神→ god)
ブラック(玄人の女)
ホワイト(素人の女)
セミブラック(半玄人)
ウー(女。「ウーマン」の略)
コーペル(お嬢さん。令嬢→ドーター→銅→ copper →コーペル)
スケール(酌婦。酌→尺→ scale)

 いずれもエリート士官の割には幼稚な隠語で、まるで中学生が造ったかのようである。

「MMK」は実は海軍士官の隠語だった!

 最後に、海軍士官はアルファベットの頭文字を隠語として使っていた。その代表が「MMK」で、もててもててこまるの意。これなどは後、一九五〇年代の男子学生語でもあり、さらにまた近年の女子高校生の語でもあった。歴史は繰り返す。このような三字から成る例は珍しく、多くは一字または二字から成る。

(例)
P(娼婦)
R(淋病)
S(芸者)
F(ふられる)
G(私娼。gentle voice から)
M(もてる)
N(のろけ)
FU(ふんどし)
BA(ばばあ)
BU(ブス)
OD(おでん)
KI(キス)
KA(かかあ。妻)
KG(ケジラミ)
KU(糞)

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