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今からでも読みたい! 晶文社・編集部の3人がおすすめする2020年の3冊

記事:晶文社

晶文社ポッドキャストのロゴ。昨年、開設の際に平野甲賀さんが描き下ろしてくださいました。
晶文社ポッドキャストのロゴ。昨年、開設の際に平野甲賀さんが描き下ろしてくださいました。

積読するかしないかではなく、いかに積んでいくか

晶文社・深井(以下、深井) おのおの今年(2020)の3冊を選んできたので、話してもらおうと思います。では、葛生さん。

晶文社・葛生(以下、葛生) これはベスト3ではなくて、選んだ3冊ってことですよね?

晶文社・吉川(以下、吉川) はい、クソみたいだったでもいいです(笑)。取り上げる理由はなんでも大丈夫です。

葛生 ははは(笑)。では。2020年刊行っていうくくりだったので、本棚を見たんですが、2019年刊の本が多かったんです。

吉川 わかります。完全にコロナで時間の感覚がおかしくなっている。

葛生 それもありますね。ただ、なんでかって考えてたところ、どうも自分は一年間くらい買い渋りをしているんじゃないかと。買わずに書店で寝かせて、一年くらい経って「やばい! あれ読んでない」って焦って、2020年は2019年の本をたくさん買ってしまいました。

深井 なるほど~。

吉川 性格が出ますね。

葛生 やっぱりそれってなるべく積読をしたくない、と思っているからなんですが、そんな私の背中を押してくれた一冊が書評家の永田希さんの『積読こそが完全な読書術である』という本です。

深井 話題になりましたよね。

葛生 はい。本棚はビオトープであって、本というのは別に読むだけのものでなく積むものでもある、ということを全然詭弁ではなくおっしゃっています。毎月新刊が大量に出ていたりと、ある意味氾濫の海の中で、「主体性を持てるスペース」として本棚を考えて、必要だと思ったら本を買って、積む。そして本棚を手入れする、ということが書かれています。だから、新刊どんどん買っていいんだなあと思いました。

吉川 この本、私も思い入れがあります。コロナ禍でリモートワークが増え、寝るだけの場所だった自分の部屋に一日中いるようになったら、本棚が荒れているのがすごくつらくなってきて。で、この本に書かれているように「ビオトープ」というような形で、自分の好みの本棚にするように10年ぶりに着手しました。そういう意味で、非常にね、私にとってもでかい本でした。

葛生 そうですね、そうでした。この本発売してすぐ買って読んだんですけど、ちょうど緊急事態宣言中でした。はからずもコロナ禍と重なって読んだ人は多いかもしれないですね。

吉川 最初、「本を積んじゃうのがいやだ」って葛生さん言ってましたけど、でも、どうしても積んじゃうわけで……。要するに人間は積むか積まないかが問題ではなくて、いかに積んでいくか!

葛生 (笑)。

深井 いかに積極的に積んでいくか、ですね(笑)。

(第3回「2020年の3冊 その1〜コロナ禍と読書編〜」より)

 狂ったように面白い町田康訳「奇怪な鬼に瘤を除去される」

吉川 実は表と裏を作ってきたんです。表の3冊と裏の3冊とプラスα。

葛生 すごい、全部で7冊!

吉川 どっちにしようかな……。よし、裏にします。表と裏というのは形式で選びました。裏は2020年に完結した全集やシリーズ。計4つになっちゃいました。

深井 知らなかったけど、今年結構全集が完結しているんですね。

吉川 はい。では早速、池澤夏樹=個人全集「日本文学全集」全30。これ2020年に完結したんです。角田光代さんが現代訳をした『源氏物語(上・中・下)』がかなり話題になって、他にも石牟礼道子の『苦海浄土』がどーんと一冊になっていたり、あとは『日本語のために』っていう巻があったり色々と画期的な全集ですが、今日は私が一番好きな巻日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集に収録されている「宇治拾遺物語」の町田康による翻訳をね、持ってきました。

葛生 あー! すごい話題になりましたよね。

吉川 これはね、「奇怪な鬼に瘤を除去される」っていう「こぶとりじいさん」の話を町田康さんが現代語訳していて、これがね、あまりの面白さに一部ですごく話題になりました。まだ読んだことが無い方はぜひ読んでもらいたい。これ何人かに紹介したんですけど、ほぼ全員が狂ったように絶賛していました。

葛生 なんか、「腹抱えて本を読むなんて久しぶり」って感想ありましたね。ラジオで朗読もしていましたよね?

吉川 ああ、これ町田さんが読んだら面白そうですね。もちろん本にも収録されていますし、河出書房新社のホームページで無料公開されているので、騙されたと思ってぜひご一読ください。やばいので。

深井 面白そう。

(第4回「2020年の3冊 その2〜全集完結ラッシュ編〜」より)

 

編集部の3人がそれぞれ選んだ2020年の3冊(+α)。人文書、全集、海外小説と多岐に渡る選書になりました。
編集部の3人がそれぞれ選んだ2020年の3冊(+α)。人文書、全集、海外小説と多岐に渡る選書になりました。

完結して感極まる人続出『A子さんの恋人』

深井 では、最後に私が。一冊目はA子さんの恋人7巻』。現代アーティストとしても活躍している近藤聡乃さんが描いている漫画で、完結したんですよ! 7巻が最終巻です。

葛生 これ、深井さん激推しで(笑)。最終巻が出た時に、若干目を潤ませながら。

吉川 様子がおかしかったんですね。

葛生「葛生さん、A子さんの恋人が、終わりました」って(笑)。

深井 ちょっと会社で感極まってしまいました。共有したくなって、「読んでますか?」って葛生さんに。

葛生 はい。読まなきゃ!って思って、その夜に1巻買いました。

吉川 葛生さんすごいですね。私はまだ拝読してないんですが、確かに『A子さんの恋人』、ツイッターとか見てたら風が来ているのを感じました。

深井 そうなんです。熱狂的に好きな人がいて。

葛生 そうみたいですね。読んだ人で感想を言い合う会とかあるみたいですね。

深井 ハマる人は本当にハマる本で、私もその一人で。最終巻は発売日まで指折り数えて。『ハリー・ポッター』以来くらいの(笑)。

葛生 私まだ1巻しか読んでないんですけど、7巻の最後のページが読みたくて仕方ない。

深井 だめですよ!

吉川 世代的に「『ハリー・ポッター』以来」って相当すごいですよね。おっさんが「ビートルズ以来」って言うくらいのレベル。

深井 あはは(笑)。

葛生 歴史ですよね。

深井 完結して、登場人物がみんなそれぞれの活路を見出すのは嬉しいんですけど、この世界に触れらないのが寂しくて。もうこの登場人物たちの先を見れないんだ、と……

葛生 しきりに寂しいと言っております。

(第5回「2020年の3冊 その3〜翻訳本編〜」より)

このポッドキャストで登場する本一覧

『積読こそが完全な読書術である』永田希(イースト・プレス)

『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』山本貴光+吉川浩満(筑摩書房)

『心を病んだらいけないの?』斎藤環+與那覇潤(新潮社)

『読んでいない本について堂々と語る方法』 ピエール・バイヤール著、大浦康介訳(筑摩書房)

21世紀の資本』トマ・ピケティ著、山形浩生 ・守岡桜 ・森本正史訳(みすず書房)

『完全版 ピーナッツ全集 スヌーピー19502000(25)』チャールズ・M・シュルツ著、谷川俊太郎訳(河出書房新社)

『ムーミン全集 新版(9)』トーベ・ヤンソン著、下村隆一ほか訳(講談社)

『普及版 スクリブナー思想史大事典(10)』野家啓一翻訳編集委員長、スクリブナー思想史大事典翻訳編集委員会訳(丸善出版)

池澤夏樹=個人編集『日本文学全集(30)』(河出書房新社)

『言語の七番目の機能』ローラン・ビネ著、高橋啓訳(東京創元社)

『銀河の片隅で科学夜話 物理学者が語る、すばらしく不思議で美しい この世界の小さな驚異』全卓樹(朝日出版社)

『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』デヴィッド・グレーバー著、酒井隆史・芳賀達彦・森田和樹訳(岩波書店)

『二都物語』チャールズ・ディケンズ

『人間の絆』サムセット・モーム

『闇の奥』ジョゼフ・コンラッド

『独学大全』読書猿(ダイヤモンド社)

『彼女の体とその他の断片』カルメン・マリア・マチャド著、小澤英実・小澤身和子・岸本佐知子・松田青子訳(エトセトラブックス)

A子さんの恋人7巻』近藤聡乃(KADOKAWA)

『密やかな結晶』小川洋子(講談社)

『ユージニア』恩田陸(KADOKAWA)

『夏物語』川上未映子(文藝春秋)

JR上野駅公園口』柳美里(河出書房新社)

『地球星人』村田沙耶香(新潮社)

『おばちゃんたちのいるところ』松田青子(中央公論新社)

『ギリシャ語の時間』ハン・ガン著、斎藤真理子訳(晶文社)

『エデュケーション──大学は私の人生を変えた』タラ・ウェストーバー著、村井理子訳(早川書房)

 「晶文社ポッドキャスト」

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