1. じんぶん堂TOP
  2. 自然・科学
  3. 「食べ物で病気が予防できる」は本当? コロナ禍のいま知りたい、食品が免疫機能に及ぼす作用とは

「食べ物で病気が予防できる」は本当? コロナ禍のいま知りたい、食品が免疫機能に及ぼす作用とは

記事:朝倉書店

近年の研究では、免疫細胞のはたらきを活性化する栄養素(ビタミンなど)を摂取し、また腸内環境を整えることが腸管免疫系の改善につながるという研究成果が得られている。
近年の研究では、免疫細胞のはたらきを活性化する栄養素(ビタミンなど)を摂取し、また腸内環境を整えることが腸管免疫系の改善につながるという研究成果が得られている。

食べ物で病気が予防できる?  

 新型コロナウイルスの流行をきっかけに、メディアでは毎日のように“免疫”という言葉を見聞きするようになりました。日常生活の中の他愛ない雑談で話題にのぼることも多く、免疫という概念が広く一般に浸透したことを実感します。

 あらためて免疫とは、病原微生物などの脅威から身を守るために私たちのからだに備わったしくみのことをいいます。医食同源、"You are what you eat"という言葉もよく知られ、食事と健康が密接にかかわっていることは誰もが認識していることと思います。一方で、コロナ禍で巷にあふれる「免疫力を高めるレシピ」「○○を食べて免疫力アップ!」といった話題に対しては懐疑的な人も少なくないのではないでしょうか。

 食品と免疫機能はどのように関係しているのか、それを体系的に解説するのが本書『食品免疫学事典』です。
※「免疫力」という表現は近年さまざまなメディアで使われ、医師をはじめ専門家によって用いられるケースも多々見られますが、あくまでも一般向けにわかりやすく説明するために作り出されたものです。

『食品免疫学事典』日本食品免疫学会(編)
『食品免疫学事典』日本食品免疫学会(編)

食品免疫学とは

 日本食品免疫学会は、食品がヒトの免疫系に及ぼす影響を科学的に解明し、その成果を健康の維持増進に役立てることを目指す学術団体です。

 近年、健康志向の高まりや予防医学への移行により、疾病予防の観点から食品の機能性に大きな注目が集まっています。「風邪にはネギがきく」などの数々の民間伝承からもわかるように、人々は古くから健康によい食べ物を経験的に見出し、生活に取り入れてきました。それが最近になって、科学技術の進展とともに腸内細菌のはたらきや免疫系の詳細なしくみが解明されたことにより、食品のもつ免疫調節機能の総合的な理解が可能になりました。こうした土台のもとで発展を遂げてきたのが食品免疫学です。

 食品と免疫機能をつなぐカギになるのが腸。食べ物を消化吸収する腸管は免疫器官としても重要な役割を担っており、全身の免疫細胞の半数以上が腸管に存在しているといわれています。近年の研究では、免疫細胞のはたらきを活性化する栄養素(ビタミンなど)を摂取し、また腸内環境を整えることが腸管免疫系の改善につながるという研究成果が得られているそうです。

 本書では、食べ物の意義、消化管や腸内細菌の役割、免疫のしくみといった基礎から、食品免疫学研究の最新知見まで、約220のトピックを見開き形式で解説しています。

 食品は私たちが生命を維持するうえで欠くことのできないものである。近年、食品が生体に及ぼす調節機能は分子レベル、細胞レベルで明らかにされ、人々の健康の維持・増進に大いに役立っている。こうしたなかで食品免疫学は、病原体などの攻撃からからだを守る主要な機能である免疫系に対する食品の調節作用を明らかにすることを目的とした学術、研究領域である。

 最近になり、食品免疫学について統括的かつ精細な理解がすすみ、食品による免疫機能の維持の重要性が大きく着目されるようになった。たとえば、食品を構成する成分の構造と生体に対する作用が最新の高度な生命科学的解析手法を用いて研究され、食品のもつ広くかつ新しい側面(たとえば、免疫系以外にも脳神経系、内分泌系などに対する作用)が明らかにされつつある。
 一方、免疫系の働きは最先端の研究手法で明らかにされ、その理解が大いに進んだことで臨床応用分野に大きな進歩を促している。このような食品の科学と免疫学の相まった進展が、食品免疫学の新しい地平を開きつつあるといえる。『食品免疫学事典』はじめに 上野川修一・南野昌信・八村敏志 著 より

食品のもつ免疫系への作用が認められはじめた

 現在、法律の定める保健機能食品(特定保健用食品(通称トクホ)、機能性表示食品、栄養機能食品)の枠組みで、内臓脂肪の燃焼やストレス軽減などさまざまな機能性をうたう食品が数多く市場に流通しているのは周知のとおりです。

 免疫調節作用を訴求する食品の販売規模も年々増大していますが、保健機能食品として認められているものはごくわずかです。しかも、そのほとんどは花粉症などアレルギー性鼻炎症状の軽減作用をうたったもので、全身の免疫に関する機能の表示は長らく認められてきませんでした。【本書10-16「免疫調節食品の開発状況」若林裕之、pp.460-461より】

 本書の製作を進めていた昨年9月、大手飲料メーカーの開発した乳酸菌を含む商品群が「健康な人の免疫機能の維持を助ける」機能性表示食品として消費者庁に受理されました。全身の免疫に関する機能が初めて認められたのです。

食品免疫学のこれから

 日本食品免疫学会の前身である食品免疫学研究会が発足したのはちょうど20年前の2001年10月のこと。2004年に研究会から学会へ移行しました。学会設立15周年を記念して計画された今回の『食品免疫学事典』の出版は、これまでの活動の集大成といえるでしょう。コロナ禍で免疫機能への関心が高まるいま、初の機能性表示食品の上市も追い風に、食品免疫学がますます進展することを期待します。

ページトップに戻る

じんぶん堂は、「人文書」の魅力を伝える
出版社と朝日新聞社の共同プロジェクトです。
「じんぶん堂」とは 加盟社一覧へ