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栄養学から生理学、流通まで 『ひと目でわかる 食べ物のしくみとはたらき図鑑』

記事:創元社

実は知らなかった「食」のあれこれ

 「食」は様々なかたちで人と関わっています。わかりきったことですが、人は食べないと生きていけません。食事への配慮なしには身体の健康は保てませんし、美容に関しても食は重要です。スポーツでは競技力向上にも関与しますし、食卓は家族や友人などとのコミュニケーションの場になり、朝・昼・晩の食事は生活リズムを整えることにつながります。食を日々の楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。食べるということは人間が生きる上で最低限必要なものでありながら、それ以上に人間の暮らしを豊かに、楽しく彩るものです。しかし、私たちはそんな「食」に関して、改まってきちんと考える機会はあるでしょうか。

 かくいう私は、生きるために食べているのか、食べるために生きているのかわからないほど、食べることが大好きです。そんな私が一人の読者としてこの本を読んだのですが、率直に、新鮮な内容の数々にとてもおどろきました。「食」がこんなにも自分に関わっていて興味もあるのに、特になにも考えずにいたのだとつくづく感じました。知らないことの多さに気づかされ、食の奥深さを実感し、自分の知識が広がっていく感覚を味わいました。

「食」全体を見渡して総合的に学べる

 「食」について学ぶと言えば、栄養学、生理学、農学、食習慣や食文化など、専門的な分野に分け、それぞれの学問の立場から説明されることが多いですが、本書では「食」が私たちとどのように関わりどのように作用しているのか、分野の枠を取り払って解説しているため、「食」の全体を見渡して総合的に学ぶことができます。では、「総合的に」とは具体的にどのようなことなのでしょうか。目次を見るとその意味がさらによくわかってきます。内容と共に第1章から簡単にご紹介していきます。

第1章 食べ物の基本
 栄養素、空腹と食欲、風味、炭水化物、インスタント食品、自然食品などがラインナップされており、「食べ物の基本」であれば、生理学も栄養学も食文化も、分野に関係なく集まってひとつの章ができていることがわかります。

第2章 貯蔵と調理
 食材の鮮度や保存の種類とその方法、ローフード(生食)、加工処理、添加物など、より新鮮で美味しく食べ物を摂取するための知識や「貯蔵と調理」の利便性の裏にひそむ危険を学ぶことができます。

どれだけ新しいと新鮮なのか?
どれだけ新しいと新鮮なのか?

第3・4章 食べ物の種類・飲み物 
 赤身肉、魚、卵、パン、葉物野菜、コーヒー、茶…と言うように、それぞれの食材・食品にフォーカスしてまとめられています。
 ここで、私の手元にあった栄養学の本と本書を比べてみます。「卵」のページを開いてみると、栄養学の本ではタンパク質が良質なこと、ビタミンCと食物繊維を組み合わせると良いこと、コレステロール値を抑制する効果がある(当然ですが栄養にまつわる)ことなどが記載されているのに対し、本書の「鶏卵」ページでは、世界全体の卵の消費量や加熱すると不透明になるしくみ、茶色と白の卵の違い、悪い評判についてなど、卵ひとつにしてもより広い視点から捉えていることがわかります。

第5章 食事
 一口に「食事」と言っても、摂取時の生体反応というミクロな話から食事に起因する生活習慣病、妊娠中に接種すべきもの、地域別の食文化など、幅広い内容を扱っています。

食事と運動
食事と運動

第6章 食べ物と環境
 環境に関する内容が掲載されているのは本書の特徴でもあります。当たり前に私たちと関わっている「食」。それは一体環境にどのような影響を及ぼしているのか、どのような問題があるのか、そして食品の未来はどうなるのか。SDGsが注目される今、知っておきたい内容に富んでいます。

フェアトレード
フェアトレード

充実のコラムで「食」の知識探検へ

 「イラスト授業図鑑シリーズ」の特徴は何と言っても、オールカラーのイラストで眺めているだけでもおもしろく、情報がコンパクトでわかりやすいという点です。難しい参考書は読んでいると眠くなってしまうという人でも、「勉強している」感覚を持たずに、飽きることなく学ぶことができます。

 さらに、ひとつのテーマが見開き1ページにおさまっているため、どこのページを開いても、そこから「食」の知識探検に出かけることができます。そしてその探検の中での予期せぬ知識や雑学との遭遇が、本書を読むときの楽しさのひとつだと思います。

 というのも、本書はそれぞれのページに「応用コラム」、「雑学コラム」、「Q&Aコラム」など、多彩なコラムがふんだんに散りばめられています。例えば、「匂いと味」(18/19頁)というページを開けば、食べ物を知覚する時のしくみや生理現象などを扱っている中で「食べ物にはどうして味と匂いがあるのか?」というコラムが目に入ります。確かに、そもそもなぜ味と匂いがあるのだろう。と、言われてみたら答えられません。思いもよらなかった疑問に引き込まれ、そこで新たな知識を得ることができます。(なぜ食べ物に味と匂いがあるのか? については、本書をお手に取って確認してみてください。)

匂いと味
匂いと味

 このように、今まで当たり前に通り過ぎていたことでも、改めて「なぜ?」と聞かれると考えたことすらなかったことに気づき、その真相を知りたいという好奇心を掻き立てられます。「へぇ〜」と言わずにはいられない、発見にあふれたこの1冊で、食について考え直してみませんか?

(創元社編集局 山下萌)

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