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雲の中で雪や雨のできるメカニズムとは? 実はまだわかっていない部分も多い「雪雲」について

記事:朝倉書店

我が国の国土の半分は豪雪地帯であり、総人口の約5分の1の人々が生活している。
我が国の国土の半分は豪雪地帯であり、総人口の約5分の1の人々が生活している。

日本の国土の半分は豪雪地帯

 冬季、大陸からの寒冷な季節風は日本海を渡ってくる間に多くの熱と水蒸気を取り込み、日本海沿岸を中心に大量の降雪をもたらす。このようにして生成された大量の降雪はしばしば交通機関や住宅等に大きな被害を及ぼす。我が国の国土の半分は豪雪地帯であり総人口の約5分の1の人々が生活している。これらの地域では、従来、気象・積雪等を受身の姿勢でとらえ、防護策を講じるのみであったが、近年は、冬季においても無雪期と同様の社会経済活動を営むことへの要望が高まっている。降雪被害を軽減するための降雪の短時間予報の改善のためには、これらの雪雲の降水機構の理解が必須である。

長年の研究により、降雪予測精度の改善が図られてきた

 降雪予測に関する研究は、これまで主に総観スケール・メソスケールの現象に関する研究が精力的になされ降雪予測精度の改善が図られてきた。しかし、近年の時空間的に細かなスケールの降雪予測精度向上に対する要望に応えるためには、雲内の運動学的・熱力学的構造と同様に、雲物理学的構造を対象としたマイクロスケールの現象を包含した降雪機構に関する研究が重要であるが、これまでそれほど多くはなされていない。

今後は山岳域における研究も必須に

 一方、山岳域には海岸・平野部と比べてはるかに大量の雪が降るにもかかわらず、そこに住む人の数も少なく防災という観点からの重要性も低いためか、降雪量の観測点も少なく山岳性降雪雲に関する研究は限定的である。山岳域の降雪は冬期間、積雪として山岳斜面に蓄えられ、春先から初夏にかけて融雪水として我々に貴重な水資源を提供してくれる。気候変動に関する研究で、降雪量や積雪量の将来予測の議論を耳にすることも多くなったが、その妥当性を検証するためにも、山岳域における観測データや降雪機構に関する研究は必須になると思われる。

大量の雪が降るにもかかわらず、住む人の数も少なく防災という観点からの重要性も低いためか、降雪量の観測点も少なく山岳性降雪雲に関する研究は限定的である。
大量の雪が降るにもかかわらず、住む人の数も少なく防災という観点からの重要性も低いためか、降雪量の観測点も少なく山岳性降雪雲に関する研究は限定的である。

首都圏などに降雪をもたらす雲の実態は?

 日頃雪に慣れ親しんでいない首都圏などの太平洋側の人口密集域では、10cm程度の雪が降り積もるだけで、交通機関に影響を与え社会経済活動に思わぬ被害をもたらすこともある。その度に南岸低気圧による降雪も脚光を浴びているが、これまでそれに関する系統的な研究もほとんどなされてこなかったので、首都圏などに降雪をもたらす南岸低気圧に伴う雲の実態もよくわかっていない。

首都圏などの太平洋側の人口密集域では、10cm程度の雪が降り積もるだけで、交通機関に影響を与え社会経済活動に思わぬ被害をもたらすこともある。
首都圏などの太平洋側の人口密集域では、10cm程度の雪が降り積もるだけで、交通機関に影響を与え社会経済活動に思わぬ被害をもたらすこともある。

降雪現象についての理解と興味を深めるために…

 本書の第1章では、世界と日本における降雪分布を概観し、第2章では基礎知識として雲の中で雪や雨のできるメカニズムの概要を説明し、第3章では日本海上で発生・発達し日本海沿岸・平野部に降雪をもたらす色々な形態の降雪雲システムについて、山岳の風上斜面で再発達し高標高部に大量の雪をもたらす山岳性降雪雲について、そして首都圏などに降雪をもたらす南岸低気圧に伴う降雪雲について、その内部構造や降雪機構を中心に紹介する。第2章で述べた雲物理過程の基礎によって、第3章で紹介した種々の降雪雲システム内での降雪粒子の成長過程の理解を深めていただき、冬季の日本の気象を特徴付けている降雪現象のミクロな視点からの理解と興味を深めていただけたら幸いである。第4章では降雪予報の現状について、第5章では降雪の社会に対する影響や社会との関わりについても述べる。

2021年10月
村上 正隆

『日本の降雪』―雪雲の内部構造と豪雪のメカニズム―
『日本の降雪』―雪雲の内部構造と豪雪のメカニズム―

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