日本社会とことばの関わりを探る ─日本語の語彙はどのように生まれ育ってきたのか
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
日本語の語彙を探ろうとするとき、星々にも喩えられる膨大な量に圧倒されることでしょう。いったいどのように探っていけばよいのか。
ひとつ確かなことは、語彙は無数の人間の努力と協力の所産であるということです。語彙のもとになる単語の一つひとつを先人たちが作り、たゆまぬ努力と協力により磨き上げてきました。
「何千万本とも数知れないイネの苗が植えられたどこまでも続く田んぼという例にもあるように、先人たちが切り開き、つくりあげてきた沃野」(第1巻「序」より)
このようにも喩えられるほど豊かに広がったのが日本語の語彙です。
そこにどのような努力と協力があったのでしょうか。大きく三つに分けて考えられます。第一に語彙をつくること、第二に時代の要請に合うよう更新し最適化すること、第三に個人=言語主体そして言語社会が語彙を共有することです。この三つの営為が交わったり重なりあったりしながら語彙の沃野を豊かに実らせてきました。
それは、あたかも一人の子どもが学校に入って話し方・書き方、漢字などを憶えていき、上級の学校で難解な語彙を使いこなしていくようでもあります。
本シリーズでは、第1巻を日本語の語彙の世界の道しるべとして、第2巻から第7巻まで時とともに日本語が育っていく姿を探っていきます。第8巻はそれまでの歴史的視点を離れ、地理的視点に立って日本語の語彙を考えます。
第1巻から順に読み進むことで、日本語が今のように育っていく姿を再現できることでしょう。しかし、気軽に『第7巻現代の語彙』あるいは『第8巻方言の語彙』から手に取って、現代から歴史をさかのぼっていくのも面白いかもしれません。大河ドラマを視聴されている方は劇中で使われていることばの背景を本シリーズによって知ることができるでしょう。
本書は日頃メールや手紙で語彙に悩んでいる方の即効薬ではありませんが、大所高所から語彙を眺めることで、ことばを探すという行為の中に楽しさを見つけられるようになるかもしれません。
(初出:2021.10.26 図書新聞)