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「同性婚が認められないのは人権侵害」から「結婚の自由をすべての人に」へ

記事:明石書店

『同性婚 だれもが自由に結婚する権利』(明石書店)
『同性婚 だれもが自由に結婚する権利』(明石書店)

放置されてきた、国家によるあからさま差別

 「結婚差別」と聞いて思い浮かべられることの中に、法律によって結婚が阻まれる人たちのことは入っているだろうか。現在の日本では、法律上の性別が同じ2人は、「法律上の性別が同じ」という、ただそれだけの理由で、どんなに婚姻を望んでいても、もちろん2人ともが成人であっても婚姻できない。

 しかしながら、このことが差別だと思う人は、これまで日本にどれだけいただろうか。日本社会では、この国家による、あからさまな差別が長年放置されてきた。

 「結婚の自由をすべての人に」と名付けられた訴訟が、現在、全国5つの裁判所で行われている。私は、福岡地裁で行われている「結婚の自由をすべての人に」訴訟の九州の弁護団員である。この訴訟は、「同性婚訴訟」とも言われる。

「結婚の自由をすべての人に」

 同性婚訴訟ではなく、「結婚の自由をすべての人に」という正直覚えにくい、実は弁護団員でさえ時には間違うこのフレーズによるのは、1つには、「同性婚」という何か特別な結婚を求めているわけではないからである。また、理由の2つ目は、自分たちのことを同性どうしだと思ってないカップルも、法律上の性別が同性なら結婚できないからである。そして、3つ目の理由は、結婚するかしないか、その自由が認められ、選択できるようになるべきだからである。

 そのような思いから、「結婚の自由をすべての人に」と名付けられた訴訟が最初に提訴されたのは、2019年2月14日であった。札幌、東京、名古屋、大阪の地方裁判所で一斉に提訴され、その後、同年9月に福岡、また、昨年3月には東京で第二次訴訟も提訴された。ご存じの方も多いのではないかと思うが、昨年3月、札幌地裁が「結婚の自由をすべての人に」訴訟の初めての判決を出した。それは、同性どうしの婚姻を認めていない現在の民法や戸籍法は憲法14条1項(法の下の平等)に反するという画期的な判決であった。

同性婚人権救済申立てから「結婚の自由をすべての人に」訴訟へ

 この「結婚の自由をすべての人に」訴訟はいきなり始まったのではない。本書はこの訴訟につながる大きな流れの1つから出来たものである。「結婚の自由をすべての人に」訴訟の一斉提訴から遡ること約3年半前の2015年7月7日、全国455人の当事者が、「同性婚が認められないのは人権侵害」だとして、日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。訴訟の原告や弁護団員の中には、その同性婚人権救済申立て(*1)から関わっている人たちがたくさんいる。私もその1人だ。

*1 同性婚人権救済申立ての当時も、いわゆる同性婚を求める人の中に自分たちのことを同性どうしとは思っていない人たちが含まれていることは分かっていたが、当時はまだ同性婚という言葉を使わないと分かりづらいのではないかということが先に立ち、「同性婚」という言葉を申立てや弁護団の名前に冠した。

 いきなり訴訟ではなかったのは、パートナーシップ制度がまだ始まる前(*2)の、また、全米での同性婚を実現するアメリカ連邦最高裁判決(2015年6月)が出たばかりの日本で、訴訟をすることは、原告にとっても、弁護士にとっても、まだまだハードルがとても高く、社会的にも訴訟を支えるだけの機運がまだ醸成されていなかったからである。そこで、まずは人権救済を申立て、よい結果を得て、それをもって訴訟を提起しようとしたのだ(*3)。

*2 日本初のパートナーシップ制度が渋谷区と世田谷区で始まったのは2015年11月である。

*3 実際には、人権救済の結果がなかなか出ず、人権救済の結果が出る前に「結婚の自由をすべての人に」訴訟の一斉提訴が行われた。そして、一斉提訴の5か月後の2019年7月、日弁連は、同性婚が認められないのは人権侵害であると明確に述べる「同性の当事者による婚姻に関する意見書」を出した。
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2019/190718_2.html
 この意見書は、各地の「結婚の自由をすべての人に」訴訟で、証拠の1つとして提出されている。

 本書は、その同性婚人権救済申立てから1年後に脱稿された。人権救済の申立人の生の言葉がとてもたくさん盛り込まれ、同性愛嫌悪の根底には何があるのか、婚姻ができないことでどのような不利益があるのか、なぜ婚姻を求めるのかなどが綴られている。現在も進行中の、結婚の自由を求める闘いのリアルタイムの記録となっている。

 本書から現在までに6年の時が流れた。言葉を寄せてくださった申立人の中には、亡くなってしまった人もいる。政府は、同性婚は我が国の家族の在り方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する、と繰り返し、検討を始めようとすらしない。しかし、先延ばしにするようなことではない。間に合わなかったはもう終わりにして欲しい。

 この原稿を書いているのは、2022年6月であるが、今月20日には、大阪地方裁判所で「結婚の自由をすべての人に」訴訟の2つ目の判決が言い渡される。未来を拓く、希望が持てる判決となることを願っている。

※追記
 6月20日の大阪地裁判決では、同性間での婚姻を認めていない現行の民法や戸籍法の諸規定は憲法に違反せず「合憲」と判断した。規定を「違憲」とした昨年3月の札幌地裁判決と判断が分かれた。

 原告らは控訴するとし、関西訴訟弁護団と全国弁護団連絡会は声明を出した。
(https://www.call4.jp/file/pdf/202206/2465bafe3b1008a63e4954eb44f898dd.pdf)

 北海道と関西は高等裁判所で、他地域は地方裁判所で裁判が続く。

 ぜひ可能な方は、裁判を見に来て欲しい。裁判所に関心の高さを傍聴することで示すことができる。裁判の予定は「Marriage For All Japan  結婚の自由をすべての人に」ウェブサイト(https://www.marriageforall.jp/plan/lawsuit/)でチェックできる。

 また、そもそも、本来は国会で解決するべきこと。結婚することを法律で奪われている人たちのことも考えて、選挙権がある人は、投票して欲しい。

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