獲って、食して 、ダブルピース! 〜湿地の恵みと味わい方を知ろう
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
“湿地”とは、「水(湿)」が優先的に存在する「場や土地(地)」を表す”水のある環境”の総称で、川や干潟、水田や農業用水路まで、その対象は実に広くあります。水に依存して生きる人々は、農業や漁業、食品加工業などにおいて、様々な種類の湿地の恵みを賢く利用してきました。湿地は、多様な風景をつくりながら生態系や私たちの暮らしを支える、私たちと切っても切れない関係にあります。
(『図説 日本の湿地』序論より要約)
湿地の生態系は、個性豊かな生き物たちで構成されています。ためしに、エビ・カニ類の生活をのぞいてみましょう。
モズクガニは成体の甲羅が7~8 cmと大きく、食用としての利用もされることから、エビ・カニの代表格といえます。成体が繁殖期に川から河口域へ下ると、産卵後に生まれた幼生は海中を浮遊したのち、稚ガニとなって川を遡上するという、湿地全体を利用する生活史をもっています。ヨコエビは、源流域に限ってすむもの、上流や中流にすむもの、河口域にすむものまで様々います。水中に落ちた広葉樹の落葉を分解して下流に流す役割を果たしており、またヨコエビ自体も河口域では小魚のエサとなるため、森と川と海を有機的に繋ぐ役割をしています。ニホンザリガニは源流域のみで見られる生き物で、河畔林が供給する落ち葉を食べて分解し、有機物を下流域に供給する機能を持っています。
現在、モズクガニの漁獲量は大きく減少し、ニホンザリガニは各行政機関から希少種として指定を受けています。モズクガニは河と河口の往来のあいだにある工作物で移動の障害を受けており、ニホンザリガニとヨコエビ類は、河畔林の伐採により餌である落葉の不足に直面しています。釧路湿原では、北米産のウチダザリガニがニホンザリガニと競合し水草を切除してしまい、水系生態系に著しい悪影響を及ぼしています。
最近の管理・保全の動きとしては、釧路湿原で市民参加型でのウチダザリガニの駆除活動が実施されています。また、池の水を抜いて泥やゴミを取り除き、レンコン掘りや、外来種の魚や亀、カエルを捕って食べる「池干し」「どび流し」「土砂吐き」が各地の池や沼で復活しています。
(『図説 日本の湿地』P.50-51(川井唯史), 176(佐々木美貴)より要約)
2013年に「和食」がユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。地域に根差した多様な食材、「うま味」の重視と塩分や油分の少なさ、といった和食の特徴は、湿地の恵みを生かした郷土料理の特徴でもあります。日本の湿地からは様々な農水産物が得られ、湖沼や河川、水田などからは、アユ、ワカサギなどの魚介類、ジュンサイやレンコンなどの農作物、浅い海からはアサリ、ワカメ、コンブなどの水産物がとれます。レンコンは、煮物やきんぴら、天ぷらなどに調理され、多くの地域で食べられており、「先を見通せる」縁起物としておせち料理へ、また穴にからし味噌を詰め込み油で揚げた「からしれんこん」へと調理されます。このように、各地域の産物は風土に合った調理法によって郷土料理となり、人々に受け継がれ発展し、和食を支えてきました。
(『図説 日本の湿地』P.16(佐々木美貴)より要約)
郷土料理には、侵略者である外来種が活かされるケースもあります。前述のウチダザリガニは食材として優れていることから、北海道阿寒湖ではスープや料理の材料とされたり、土産物屋で「レイクロブスター」という名称でスープ缶が販売されたりしています。厄介者を厄介者で終わらせないための工夫は、湿地を守り、未来へ継承することに大きく貢献すると期待できます。
(『図説 日本の湿地』P.16(佐々木美貴), 157(小林聡史)より要約)