執筆25年「曾我廼家五郎の評伝を書かなければ」 大佛次郎賞受賞の日比野啓さん
記事:じんぶん堂企画室

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大佛次郎賞は、朝日新聞社が作家・大佛次郎の業績を記念するため1973年に創設。小説、戯曲、評論、ノンフィクション、歴史記述、ルポルタージュなど、優れた散文作品に贈られる賞です。
受賞した『「喜劇」の誕生 評伝・曾我廼家五郎』は、演劇史・演劇理論が専門の成蹊大文学部教授・日比野啓さんの著書。「日本の喜劇王」と呼ばれた演劇人・曾我廼家五郎(1877~1948)の足跡をたどった本格的な評伝です。
明治時代末期から40年余りにわたって人気を博しながら戦後は人々から忘れ去られた曾我廼家五郎の生涯を丹念な史料収集と取材で裏付けた功績を評価され、受賞作に選ばれました。曾我廼家五郎の活躍はこれまで十分な史料の裏付けがなく語られてきた側面があったことから、この本では最新の研究成果も踏まえて、その業績を振り返っています。
登壇した日比野さんは、この本の執筆に約25年かかったことを明かし、「常に頭にあったのは曾我廼家五郎の評伝を書かなければという思いでした」と語りました。そのうえで「今回の受賞で曾我廼家五郎という人間が成し遂げたことに、多少なりとも注目が向けられれば、これほど嬉しい事はありません」と強調。「本書では戦前の喜劇王だった男がものの見事に忘れさられてしまった、日本文化の近代化にまつわる奇妙なメカニズムについて分析を行いました。私たちの歴史を見直し、書き直す意味でも、この『近代化の逆説』を私たちが意識しておくことは重要だと考えます」と述べました。
選考委員の作家・辻原登さんは、日比野さんが「あとがき」で「曾我廼家五郎の無念を晴らすためにこの本を書いた」と記していることに触れ、「遅まきながら五郎の無念を少しは晴らしたのではないでしょうか」と祝辞を送りました。
●じんぶん堂では、同書より、序章の冒頭を紹介しています。「泣き笑い」の日本近代史! 『「喜劇」の誕生──評伝・曾我廼家五郎』