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見たくないもの、見ようとしないものを見る 紀伊國屋書店員さんおすすめの本

記事:じんぶん堂企画室

 10年と少し前、「ロスジェネ」という言葉が流行しました。その是非はさておき、当時注目された書き手の方々が、「持続する志」をもって今も思索や実践を続けておられること。これは励みでもあり緊張でもあります。こうした方々の本を読むことはすなわち、同じ時間を生きてきたはずの私自身を、自問することにほかなりません。

 栗田隆子さんの書いたものを初めて読んだのは、「フリーターズフリー」Vol.1(2007年)でした。「“ないものとされたもの”これくしょん」と題された、「強いて言えば、『観察ノート』」と前置きされたエッセイ的文章。観察の対象は、「世間様が見せたくないと思っているもの」であり、「自分が見たくないと思っているもの」だ、とされます。

 この両方を同時にやろうとするのは、実に難しいことです。自分のことを棚に上げずに、でも所謂(いわゆる)社会的(構造的・組織的)な視野も手放さずにい続けることは、時に相当な苦痛を伴います。
 『ぼそぼそ声のフェミニズム』(作品社)は、そうした営みを積み重ねてきた著者の、10年余にわたる貴重な記録です。「結論」や「具体策」を性急に求める人にはすすめない……と書こうとして筆が止まりました。むしろせかされるように「見たいものしか見ない」ようにしている(せざるをえない)人にこそ、手に取られるべきかもしれません。

 次に紹介したいのは、生田武志さんの『いのちへの礼儀』(筑摩書房)です。生田さんといえば『〈野宿者襲撃〉論』(人文書院)などの著作の印象が強く、最初は意外に思いました。

 過去の生田さんの著作を知らない方でも、これは「動物」にかかわりのある方(ということは、すべての人間)に開かれた一冊です。例えば、私たちの食する肉はどうやって私の目の前にやってきたのか。前篇では、哲学者の言説や畜産の現状、「動物の福祉」が主張される背景などが詳細に紹介・検討されます。恥ずかしながら知らなかったことばかりで、いささかの衝撃を感じながら読み進めました。

 しかし、これは声高にヴィーガンを主張するような本ではありません。後篇では、文芸作品なども取り上げつつ、動物と人間との多様な関係性に焦点が当てられます。

 ふだん見えない(見ようとしない)動物たちの「現場」を直視した上で、どんな可能性を切り拓けるか、という著者の切実な問いかけが、全篇の根底に流れています。これを読んだ上で、生田さんの「フリーター≒ニート≒ホームレス」(これまた「フリーターズフリー」Vol.1所収)を読み返すと、この真摯(しんし)な態度が持続していることが鮮明に浮かび上がります。

 最後は、2016年の相模原事件をめぐって、雨宮処凛さんが6人の方々と対談した『この国の不寛容の果てに』(大月書店)を。

 2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』を出して以来、雨宮さんといえば貧困・格差問題というイメージが強くあるかもしれません。しかし、デビュー作の『生き地獄天国』から一貫して、自身の体験や思いを抜きに何かを語ることはありません。当たり前のように思えますが、わからないことや戸惑い、自問、そうしたものを包み隠さずにものを書いたり人と話したりするというのは、とても勇気のいることです。

 「信じられない事件が起きた。/そう思いつつも、心のどこかで思っていた。『とうとう』と」(序章)。決して予測していたわけでも、あっていいと思っているわけでもないけれど、でも、起りうる状況ではある。こんなところまで来てしまった……そんな風に感じている方は少なくないのではないでしょうか(私もそうした一人です)。どの方との対談にも、じっくりと考えるべき言葉がつまっています。

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