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誰もが抱える「弱さ」を気にかけあうこと ケアについて考える3冊 紀伊國屋書店員さんおすすめの本

記事:じんぶん堂企画室

病・ケガや死は避けたいものであるが、避けられない。それを前提とした上で、生を肯定し、支える営みがケアである(「ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと」より)/Getty Images
病・ケガや死は避けたいものであるが、避けられない。それを前提とした上で、生を肯定し、支える営みがケアである(「ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと」より)/Getty Images

 いつの頃からか、「ケア」という言葉に引き寄せられるようになっていた。元来、比較的体の丈夫な私は、それほど不調を感じることが少なく、医者にかかることもまれである。しかし、新しい命を宿し日々重くなる体を抱えて過ごし、また、生まれてきた子どもを育む中で「弱さ」と向き合うようになった。「弱い」身体と共に生きるとき大切なことは何か。今回は、そのことを深く考えるための一助となる、ケアに関する3冊の本をご紹介したい。

弱さを肯定し、支える営み

 ケアに関する入門書としておすすめしたいのが、『ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと』(村上靖彦、中央公論新社)である。

 本書は、20年近く医療福祉現場での調査研究を重ねてきた著者が、これまでにケアを受ける人や医療従事者、ソーシャルワーカーへの聞き取りを通じて得た学びから「ケアの要点」を論じたものだ。

 病や障害・逆境を前提とする援助職によるケアは、患者や利用者の生活に制限が加わることから始まる。「弱い」立場となった人々からのSOSを察知し、声を汲み取り、一緒になって生きることを考える支援者たち。逆境に陥ったことに伴い、世界から切り離され、周りの人からも切り離され孤立する中、なんとかコミュニケーションをとり、つながりを作ろうとする姿がつぶさに描き出されている。

 ところで、本書にはケアが医療と乖離するケースがいくつか取り上げられている。例えば、末期の心臓病で厳格な食事制限を強いられているさなかに、プリンや寿司が食べたいと願い事をされたとき、医療者はどうするか。医療行為の対象となる「臓器」には負担となるが、「心」と混じりあう内側から感じるあいまいな〈からだ〉にとっては大きな意味を持つ。

 また、緊急性の高い場面では、患部の状態や器械の数値などを確認することに意識が奪われがちで、患者とのコミュニケーションよりも優先されることは想像に難くない。これは医療技術の進歩によるものであり、医療技術の中にコミュニケーションを目指す意思が加わったところで医療的なケアが生まれる。そこで、次に、こういったあいまいな〈からだ〉や医療的なケアに着目した一冊をご紹介したい。

「生きたい」を支える医療と介護

不安の時代に、ケアを叫ぶ ポスト・コロナ時代の医療と介護にむけて』(川口有美子/新城拓也、青土社)は、医療と福祉の最前線に立つ二人の「生きる」支援に関する対談集である。新城氏はがんの苦痛を軽減するための緩和ケア医であり、川口氏は、このコラムをご覧の方の中にはご存知の方も多いと思うが、『逝かない身体』の著者で、ALS(筋委縮性側索硬化症)など難病患者の生活支援の専門家である。

 「尊厳死」や「安楽死」、「安楽死」と緩和ケアはどう違うのか。トリアージ、優先する生命とは、QOL(生の質)・QOD(死の質)は誰のためのものなのか。そして、新型コロナウイルス感染症。これまでの「常識」が揺さぶられる状況の中で、人が人生の最後を迎える瞬間まで、何を大切にしたらよいのか、どのように生活を支えることができるのか、正直な言葉で綴られている。

「気にかけあう街」をつくる

 ここで、一度立ち止まって考えてみたい。これまで医療や福祉を中心に「ケア」を考えてきたが、そもそも「ケア」とはどういうことなのだろう。そう疑問に思い手に取ったのは、『壁を壊すケア』(井手英策、岩波書店)という一冊だ。

 筆者は冒頭で「ケア」を再考し、医療・福祉に限らず、教育や子育て、貧困、人権、社会参加、さまざまな課題とむきあいながらまわりの誰かを「大事だとおもう」「気にかける」ことが「ケア」だということに思い当たる。お互いがお互いを気にかけあう関係を、生活の空間、身近な社会の中にどうやって作り出していくのか。本書では、社会のなかにあるさまざまな「壁」を壊すために続けられている9人の実践家の試みを紹介している。

 妊娠期のままならない身体、自力では生きることのできない乳児という存在を通して、ようやく見えた世界。私たちの生きるこの社会は、「弱さ」に目を背けがちだ。誰しもが抱える「弱さ」を認め支えあい、そして気にかけあうということは、医療福祉現場に限らず、日常を生きる私たちにとっても非常に大切なことではないだろうか。

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