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『男子劣化社会』 男子は女子よりネット依存になりやすい?

記事:晶文社

『男子劣化社会 ネットに繫がりっぱなしで繫がれない』(晶文社)
『男子劣化社会 ネットに繫がりっぱなしで繫がれない』(晶文社)

パソコンの前から動かず、部屋から出てこない男たち

 この変化し続ける不確かな世の中で新種の困難に直面した多くの若い男たちが、安全な場所にひきこもることを選んでいる。それは、自分で結末をコントロールでき、拒絶される恐れもない、自分の能力を称賛される場所だ。彼らにとってゲームとポルノはそんな安全地帯だ。そうして彼らはますますゲームに熟達し、腕を上げ、ゲームの中で高いステイタスと尊敬を勝ち得る。

 この現象は女性には見られない。なぜなら、女性はたいていこの種の競争を意味のあるものとはみなさないし、ゲームの腕を磨いたところで尊敬は得られないからだ。一般的にゲームのチャットルームは、女性ゲーマーの参加をさほど期待していない。加えて、男性には女性よりも簡単にゲームにはまる性向がある。ロシアの研究者ミハエル・ブドニコフがコンピューターゲームへの依存性向を低中高のリスクに分類したところ、中リスクでは女性がわずかに男性を上回ったものの、高リスクでは男性が女性の3倍以上に達した(男性の26パーセントに対し、女性は8パーセント)。

 なにもゲームをすること自体が悪いと言っているわけではない。ゲームには多くの良い点があり、有益でもある。しかし、とりわけ孤立した状況で過剰にプレイすると、若者たちから、顔と顔を合わせた場での社交術を身につける能力や興味を奪いかねない。加えて、ゲーム中のアクションの多様性と強烈さに比べれば、学校など、生活の他の部分は退屈だ。その結果、成績が下がり、場合によってはADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されて薬物治療が必要になる。

 そんな混乱をポルノがさらに増幅させる。ポルノ自体は、たまに見る程度の人や、目に映るものと並行する個人的体験がある人には、さほど大きな問題にはならない。けれども、性教育や実際の性体験がまったくない若者には深刻な問題を引き起こしかねない。事実、多くの男性が生身の人間ではなく、ハードコア・ポルノにより性的感覚を発達させている。

 私たちの調査でも、多くの若者がポルノのせいでセックスや親密さのあるべき形についてどんなに現実とかけ離れた、またはゆがんだ考えをもっているか、それゆえに実際の相手に欲情することがどんなに難しいかを訴えた。彼らにとって現実の性交渉はなじめない、不安を呼び起こす体験になりかねない。なぜなら、そこではコミュニケーション能力が必要となり、実際に身体と身体が結びつかねばならず、セックスや恋愛に対する独自の欲望をもった生身の人間を相手にしなければならないからだ。また、過度にポルノを見ることが、集中力や情緒面での健康といった、生活の他の部分にどんなに悪影響をおよぼすかを訴えた若者たちもいた。

なぜ男子のほうがゲームやポルノにハマりやすいのか

 女性もゲームはするし、ポルノも見る。だが、女性たちがそれらに費やす時間は男性とは比べものにならないくらい短い。ポルノを見るというコンセプト自体が、間違いなく男性のものだ。『性欲の科学』(CCCメディアハウス)によると、共著者のO・オーガスとS・ガダムが4億件のネット検索をふるいにかけたところ、そのうち5500件がエロチックな内容の検索だった。

 そういった検索はいったい誰がしているのだろう? もちろん、男たちだ、ほぼすべて。オーガスとガダムによると、エロチックな小説は男性よりも女性により好まれているが、エロチックな画像や動画に関しては、男性は女性の6倍も好んでいる。事実、「Brazzers」や「Bang Bros」といった人気有料サイトの視聴者の75パーセントが男性だが、実際に視聴料が支払われたクレジットカードの名義を見ると、わずか2パーセントしか女性でない。

 どうしてここまで違うのだろう? ポルノ愛好家の女性やエロ小説好きな男性が多くいたとしても不思議はないのにだ。オーガスとガダムはこれを、男性が「or」により欲情できるのとは対照的に、女性が欲情するには「and」が必要であるからだと説明している。つまり男性は、形のいい乳房 or 丸みをおびた尻 or MILF(mother-I’d-like-to-fuckの略でセクシーな年上女性のこと)など、一つの刺激で欲情できるのに、女性が欲情するには、かっこよさ and 子ども好き and 自信にあふれている、といった複数の刺激が必要なのだ。

 男性の脳はセックスと恋愛を切り離しているが、女性の脳ではその二つの神経系が結びついている。反対に、女性の脳は心理的欲情と肉体的欲情を切り離しているが、男性の脳では結びついている。男性と女性は別のエロチックな刺激により欲情し、違った方法でそれをプロセスし、それぞれの刺激に反応して異なる態度を取る。

 ポルノとゲームどちらか片方でも過剰使用は実生活に問題を引き起こしかねないが、両方の組み合わせは致命的で、通常の活動からのさらなる撤退、社会的孤立、他人それも特に異性と付き合う能力の喪失が生じかねない。ポルノにもゲームにも依存性があるが、これらの依存症は他の依存症と同じではない。

 私たちはこれを「興奮依存症」と呼んでいる。同じ量の性的刺激を得るには、常に新しい材料が必要となる。同じ画像を繰り返し見れば、短時間で興味は失われる。鍵となるのは、視的体験の斬新性だ。ポルノとゲームの業界はともに無限のバラエティをユーザーに提供する態勢にあるので、こういったデジタルのアウトレットと、生活の他の活動とのバランスをうまく取ることは、個々人にかかっている。

(『男子劣化社会』より抜粋)

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