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『本の虫の本』はどのようにして本になったか?  著者が語る制作裏話

『本の虫の本』(創元社)

本にまつわる用語集からスタート

 著者の代表として『本の虫の本』がどのようにして本になったか、その過程をお話ししたいと思います。そもそもは創元社の編集者・内貴麻美から「ご相談があります」とメールをもらったことから始まりました。2017年9月15日です。ちょうど私は京都のギャラリー恵風という画廊で絵の個展を開いていた最中でしたので、会場に来てもらって話を聞きました。日記を見直してみますと、そのときの内容はざっと次のようなものでした。

 《内貴さん、打ち合わせに。本にまつわる用語集。今、絵本のようなシリーズで『翻訳できない世界のことば』などを出している。そこへ50語くらいを選んで説明文をつける(軟らかいのと、固めの解説)というのがひとつ。もうひとつはその延長で、もっと充実した読める用語集。話は「誰か書き手はいませんか?」から、小生に執筆してほしいという方向へ。イラストは「赤井稚佳さんはどうか?」という。彼女はよく知っているのでピッタリだと思うと答える。とにかくサンプル語を集めてテスト版をつくるというところまで打ち合わせる》

企画会議へ向けた用語候補

 うっかり安請け合いはしたものの、これがやってみると、なんともかんとも、えらいこっちゃ。四苦八苦しながら用語の候補リストとサンプルの原稿「犬耳する(ドッグイヤー)」「自転車操業」「つんどく」「全部読んだんですか?」「小脇にはさむ」を書いてメール送信したのが10月10日です。

 《内貴さんより、エッセイのサンプル、気に入ったとのことで、用語集にしぼってまとめたいと。ヴォリュームも考えて共著にしたいとも。11月9日に企画会議があるので、それまでにもう少し追加エッセイ読みたいという》

 そこでさらにエンジン全開しまして、10月24日には「作家」「女は女である」「受贈本」「ビブリオマンシー」「四百字詰原稿用紙」「本を食べる」「SM」「100冊」「フィロビブロン」「たのしみは」「読書会」を送信しました。我ながらガンバリました。折返し、それらを組み込んだ企画書草案(『本の虫の用語辞典』という仮タイトルでした)が届き、無事に企画会議も切り抜けて、めでたく刊行決定となりました。

本の虫、全員集合

 さて、次は刊行に向けた具体的な打ち合わせです。11月17日に大阪の創元社にほど近いブックショップ&カフェ・カロで内貴と落ち合いました。《組み方、イラストの入れ方など大まかに詰めていく。来年三月末を締め切りとして、他の四人に林からまず打診することに》と日記に書かれていますが、内貴から出来上がりのイメージをふんふんと聞いただけだったように思います。

 他の四人というのは、岡崎武志、荻原魚雷、田中美穂、能邨陽子のみなさんです。このメンバーも私が何人か候補を挙げて、そのなかから内貴が選びました。岡崎、荻原両氏は古本通として知られ、ライター、書評家として活躍しています。田中さんは倉敷で蟲文庫という古書店を営み、苔や亀についての著書があります。そして、能邨さんはまだ単著はありませんが、私は以前から同人誌などに発表されるエッセイのファンでした。京都の恵文社一乗寺店という世界的に知られるユニークな新刊書店に勤めておられます。

編集会議で使用した用語リスト

 みなさんに執筆を快諾していただき、全員集合の編集会議が開かれたのが2018年1月29日でした。創元社4階のセミナールームにて午前11時から開始。内貴のつくったリスト、台割などを見ながら、それぞれが取り上げる項目などについて全員の意見を聞きました。お昼は六文銭の弁当が出ました。割烹仕立ての会議用弁当専門店だそうです。グレードは1300円あたり(笑)。午後は岡崎氏の司会で、イラスト担当の赤井さんも含め、執筆者全員の子供のころからの本との付き合いを告白してもらいました。これはなかなかいいアイデアで、著者同士お互いを理解するのに役立ったように思います。

ヘンシュウムシのこだわり

 2018年4月2日、内貴が装丁・組版担当の納谷衣美さんを連れて来宅。

 《分類がしにくい内容なので執筆者ごとにまとめる方がいいのか、どうか。用語集の性格を残すため本の用語の索引をつくる。テキストに引用されている書名索引も。他には、コラム的なページもつくりたい。あと、タイトルをどうするか、これが問題。本の虫は入れるとして……さて。執筆者それぞれに虫の名前をつけてもらうというのも提案する》

 この時点でかなり具体的に本の形が見えてきました。《虫の名前をつけてもらう》とありますが、これは結局、私がそれぞれに勝手な名前をでっちあげて「まえがき」と「ムシ紹介」を書きました。打ち合わせのときの体験談が役立ちました。タイトルは『本の虫事典』に決まりそうだったところ、著者たちにムシ・ネームを付けたこともあって、最終的には『本の虫の本』に落ち着きました。今考えると、これしかありません。

著者の書き込み入りのゲラ

 5月28日初校ゲラを受け取り、つづいて再校をすませたのが6月27日。翌日、サッカーのロシア・ワールドカップ予選、日本はフェアプレー・ポイントでかろうじて勝ち抜きました。最後の校正はPDFにて7月21日に届きました。ルビの間違いなど細かい直しを発見。気が抜けません。そしていよいよ印刷にかかりました。刷り上がった本が届いたのが8月12日です。前年の9月15日に初めて話を聞いて、イチからつくり上げたのですから、まずは順調なペースだったと言っていいでしょう。

 出来上がった本を手にして、本好きな読者にはきっと共感してもらえる内容だと確信しました。あらためて「なるほど!」と思ったのは巻末付録の「ちょっとマニアックな用語集」です。文・ヘンシュウムシ。「ソウテイ問題」「縦中横」「ほんもん」から「編集」まで14項目だけなのですが、著者たちが取りこぼした用語を拾ってあります。これがとりわけ面白く書けており、思わずクスリと笑みがこぼれます。最初から《読める用語集》と力説していた内貴の念頭にあったのはこういう形式だったんですね。そのこだわりが通底する会心の一冊になったと思います。

『本の虫の本』のムシ紹介(本書6-7頁より)

「犬耳する」(本書12-13頁より)

赤井稚佳さんのブックイラストレーション(本書168-169頁より)

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