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対人不安が強い人には「強み」がある 『「対人不安」って何だろう?』より

記事:筑摩書房

original image:tadamichi / stock.adobe.com
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対人不安のある人の方が人とうまくいく

 不安が強いなどといったネガティブ気分が対人関係を良好に保つのに役立つというと、すぐには信じられないかもしれないが、そのことは心理学の実験で証明されている。

 この種の研究で言われているのは、不安なときの慎重さが相手に対する配慮など対人関係上のメリットをもたらし、ポジティブ気分は無神経な接し方や強引な接し方につながりやすいということである。そう言われてみれば、なるほどと思えるのではないか。

 心理学者のフォーガスは、不安などのネガティブ気分が多くの対人関係上の恩恵をもたらすことを実験によって証明している。つまり、ネガティブ気分の人の方が、ポジティブ気分の人よりも、用心深く配慮し、礼儀正しく、丁寧にかかわれることが示されたのだ。

 たとえば、頼み事をする際には、うまく受け入れてもらえるように、相手の気持ちに配慮して、適度に丁寧な頼み方をする必要がある。そんなとき、不安の強い人の方が、用心深く相手の反応を予想し、礼儀正しく、洗練された頼み方をすることがわかった。

 それに対して、ポジティブ気分の人は、礼儀正しさに欠け、自己主張的な依頼の仕方をする傾向がみられた。

 隣のオフィスにファイルを取りに行ってもらう実験でも、ポジティブな気分の人よりニュートラルな気分の人の方が、丁寧で洗練された頼み方をし、さらにネガティブな気分の人の方がよりいっそう丁寧で洗練された頼み方をしていた。

 このような実験結果からわかるのは、ネガティブな気分のときは慎重な心の構えになり、相手の気持ちを考えて、嫌な感じを与えないように自分のものの言い方を調整しようとするため、対人関係がうまくいきやすいということである。

 さらには、意外かもしれないが、対人不安が相手の気持ちに対する共感能力と関係しているということもわかっている。

 心理学者のチビ=エルハナニたちは、対人不安と共感能力の関係を検討する調査と実験を行っている。その結果、対人不安の弱い人より強い人の方が、他者の気持ちに対する共感性が高く、相手の表情からその内面を推察する能力も高いことが証明されている。

 このように、不安が強いということは、用心深さに通じる。それが対人場面では、相手の心理状態に用心深く注意を払うといった心理傾向につながっている。そのため、相手の気持ちを配慮した適切な対応ができるわけだ。

 それに対して、不安があまりないと用心深くならず、対人場面でも相手の心理状態に用心深く注意を払うということがなく、相手の気持ちに関係なく自分の都合で一方的にかかわることになりやすい。

 たとえば、対人不安の強い人は、人に何か言うときも、「こういう言い方をしても大丈夫かな」「こんなことを言ったら、感じ悪いかもしれない」「こんなふうに言ったら気分を害するかもしれない」「押しつけがましい言い方は避けなければ」「うっかりすると誤解されかねないから、言い方に気をつけないと」などと考え、言葉を慎重に選び、言い方にも非常に気をつかう。

 一方、対人不安がない人は、相手がどう受け止めるか、相手がどんな気持ちになるかなど気にせずに、無神経なことを平気で言うため、相手を不快な気分にさせたり、傷つけたり、怒らせたりして、人間関係をこじらせてしまうことがある。

 こうしてみると、対人不安が強いのも悪くはないと思えてくるだろう。対人不安のおかげで相手のことに配慮でき、人とうまくやっていけているという面もあることは見逃せない。無神経なことを平気で言う人が周囲から浮いているのは、周りを見ればわかるはずだ。

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