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孤独は、最もつきあいやすい友である 保坂隆『精神科医が教える 60歳からの人生を楽しむ孤独力』

記事:大和書房

保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆さん
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長の保坂隆さん

 日曜日夕方の楽しみといえば、テレビアニメ「サザエさん」という人がいるでしょう。テレビの楽しみ方が驚くほど多様化している現在でも、家族そろって「サザエさん」を見るという家庭も多いようです。私も自宅にいるときにはつい見てしまうのですが、ここ数年、「サザエさん」に、なんとなく違和感を覚えるようになりました。

 この違和感の正体は何なのだろうと考えてみたところ、サザエさん一家の家族構成が、現在のそれとはまったくかけ離れているためだと思い至りました。ご存じの通り、サザエさん一家は三世代の7人家族です。しかし、このような家族を現在の日本で見ることは滅多にありません。たとえば、「国民生活基礎調査」を見てみると、三世代の世帯は全体のわずか5.3パーセント足らず。7人以上の世帯にいたっては1パーセント未満です。

 「アニメなんだから、そこまで真面目に考えなくてもいいだろう」と自分でも思うのですが、私は医師という仕事柄、シニアと呼ばれる年齢の人と面談する機会がとても多く、かなりの割合が一人暮らしという現実を知っているため、どうしても「サザエさん」で描かれている家族構成が、現状とあまりにもそぐわないという違和感を覚えたのだと思います。

 「高齢社会白書」によると、一人暮らしの65歳以上は男女あわせて600万人近くに達するそうです。この数字は今後さらに増えていくはずですから、「サザエさん」とは正反対に、誰もが「孤独」になることを覚悟しなければならない時代になりつつあるのでしょう。

「孤独=恐怖」は思い込みにすぎない

 「孤独」という言葉に悲壮感や絶望感を感じて、聞いただけでつらい人もいると思います。とくに「サザエさん」ほどでないにしても、大家族で暮らしてきた人には想像もつかないようです。

 でも、あまり怯える必要はないと断言しておきましょう。「孤独=恐怖」という思い込みは、孤独を知らないために起きる感情に過ぎません。

 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ということわざがあります。尾花とはススキの穂のことで、直訳すると「幽霊だと思って震え上がったものが、よく見たら枯れたススキの穂だった」という意味です。孤独もこれと同じだからつらく感じるのです。つまり、孤独な生活がどんなものなのかわからず、あえて理解しようともしないからつらいと思うわけで、孤独の正体を知り、上手につき合う方法を身につけてしまえば、シニアが対処しなければならない他の問題──たとえば健康やお金と比べれば、はるかに与しやすいと思います。

 私たちはどうしても「孤独=好ましくない」と考えがちです。たしかに、孤独感が強い人は他人と協調する能力が低く、後ろ向きに考えがちになると思われますし、他人との交流がない人は、交流がある人よりも死亡率が高いという調査結果もあります。

 しかしこれとは逆に、他人との交流が少ない人ほど有意義な時間を過ごしていて、心身の健康状態も高いという調査結果もありますし、孤独な人ほど独創的なアイデアを思いつきやすいと指摘する研究者もいます。

60歳からの「内発的動機づけ」

 なぜ、このような正反対の帰結が生まれるのでしょうか。それは、孤独に対する考え方や捉え方が人によって違うためだと思います。他人と協調する能力が低かったり、死亡率が高くなってしまう人は、孤独が寂しいと感じている人です。それに対し、有意義な時間を過ごすことができたり独創的なアイデアに溢れている人は、孤独を好ましいことと感じている人です。

 このように、自ら進んである課題(この場合は孤独になること)を始めることを「内発的動機づけ」と呼びます。子どもの頃に勉強が大嫌いだった人でも、自分が興味のある科目だけは学習が進んだはずです。これは、自分の興味や関心という「内発的動機づけ」で勉強を始めたためです。

 反対に、親に「もっと勉強しなさい!」「成績が下がったら、お小遣いを減らしますよ!」などと言われた科目はますます嫌いになり、テストの点数は落ちていく一方だったのではないでしょうか。このように、評価や賞罰、強制などである課題を始めることを「外発的動機づけ」と呼びます。

 つまり、孤独を必要以上に恐れたり、孤独は寂しいことだと思い込んでいると、毎日の生活にうんざりしたあげく、死亡率まで高くなってしまうのです。一人暮らしの世帯は年々多くなっているわけですから、明日は我が身です。そうなるとわかっているなら、「一人になったら何をしよう」と楽しみにしていたほうがいいでしょう。

「孤独」を受け入れると、心はぐっとラクになる

 一人暮らしになったばかりのシニアにこんなアドバイスをすると、ほとんどの人から「とてもそんなふうには思えない」という答えが返ってきます。たしかに本音はそうかもしれません。でも、そのままでは「寂しさ」にとらわれて落ち込む一方です。

 そうならないように、ちょっとしたきっかけがあったら、「楽しい」「自由になれた」と思ってほしいのです。思うのが難しいなら、口に出すようにしてください。

 これも外発的動機づけの一種ですが、そう思い込むことで次第に「楽しい」「自由になれた」という気持ち(内発的動機づけ)に変化していきます。つまり「寂しさ」から解放されて、新しい一人の世界が見えてくるということです。

 もちろん、寂しいと感じる瞬間はあるでしょう。「これ、おいしいね」と、食事中に話しかけても応えてくれる人はいませんし、美しい景色を見てもそれを共有できません。孤独で生きるということは、すべてを一人で完結しなければならないわけです。

 でも、必要以上にそれを寂しがっても事態は変わりません。大切なのは、プラスとマイナスがあることをしっかり知っておくことです。

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