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生きるチカラってなんですか? 『10代からの批判的思考 社会を変える9つのヒント』

記事:明石書店

『10代からの批判的思考 社会を変える9つのヒント』(明石書店)
『10代からの批判的思考 社会を変える9つのヒント』(明石書店)

主体的に生きる

 皆さんは今どんな社会を生きていますか?

 こう問いかけると、若い人からは、「わたしはまだ高校生なので社会には出ていません」、「僕は大学に入学したばかり。社会に出るのは3年後かな」、そんな答えが返って来そうです。でもちょっと考えてみたら、家庭も高校も大学もこの社会の中にあって、いま実際にその社会で生きているのですから「まだ社会に出ていない」と表現するのは矛盾するようにも思います。社会に出ている出ていないなどと区別することはあまり意味がないのかもしれません。重要なのは、「社会を主体的に生きていくためには、それなりの知識や考え方や方法が求められる」、言い換えれば、「生きる力」が求められるということです。

 若い読者の皆さんから見れば、私たち執筆者はみなさんより多少年上です。不思議ですが、人は年を重ねてくると、今まで自分が歩んできた人生の中から何かを若い人たちに残していきたい、次の世代に手渡していきたいと思うようです。私も5年くらい前から、高校生や大学生のような若い人が「生きる力」を身につけ、育て、伸ばしていくためのお手伝いをしたいと思い続けていました。そこで今までの人生の中で知り合った人に声をかけて、この本を作りました。執筆者は大学教員・教育産業関係者・高校教諭・グローバル企業の社長と多種多様です。みな専門も違いますし社会のすべての問題に精通しているわけではありません。政治や教育に関する考え方も違うでしょう。しかし、「批判的に考えることの重要性」については同じ考えを持っています。それをそれぞれの切り口で読者に向けて語っているのがこの本なのです。

主体的に学ぶ

 本書全編に共通する姿勢は、読者に教えるのではなく、読者と一緒に考える、その「考える過程の案内役になる」というものです。私は「自分で考える力こそが生きる力」だと思っています。したがって、「主体的なまなびを支援する」ことを意識して、問いかけと返答といった「やりとりを含む対話調」を基本としました。執筆者ごとにスタイルは異なりますが、読者が執筆者から問いかけられ、それを契機に自分で考え、自分なりの答えを探しながら読んでいく、ただ普通に読むだけで自然とそういう読み方になる本を目指しました。

 「自分のこと」として読んでもらうため、高校生や大学生にとって身近で関連のある話題や事例が出てくるよう、話題の選択にも留意しました。執筆者間で情報交換やリサーチをしながら、事例を探ったり集めたりもしました。取り上げる話題によっては、1つの意見や結論にまとまらないこともあると思います。そういう時は執筆者の考えを唯一のものとして押し付けることは避け、複数の考え方を提示して最終的には読者に自分で考えてもらえるように書きました。この本は「教える」ためのものではなく、「一緒に考える」ためのものであり、最後に決めるのは読者だからです。私は、自分が若い時にこういう本に出会っていたらもっと生き方を考えたかもなあと思いながら書きました。だから、何十年前の自分を読者として想像し、自分が読みたくないもの、距離を取りたくなる説教や押し付けはしなかったつもりです。

簡単な内容紹介

 1章は「校則」について考えます。2章は「いじめ」について取り上げます。3章は「高校で学ぶ」時のいろいろな選択肢について考えます。4章は「生涯学習とキャリア教育」を取り上げています。5章は「仕事って?」というテーマで「ワーク・ライフ・バランス」について書かれています。6章は「メディアの情報をいかに読むか」ということについて考えます。7章は「表現の自由」について考えます。8章のテーマは「日本における多文化共生」です。最後の9章は日本の外、「グローバルな世界」を生きるという話です。この本は、9つの章が少しずつ、また時には章を超えて関連し合いながらつながっていて、読み進めていくにつれて、今自分がいる世界からもっと外の世界・さらに広い世界へ旅に出て行く、そんなイメージで作られています。もちろんどの章から読んでもいいのですが、1章から順番に読んでもらうと、その世界の広がりをもっともダイナミックに感じてもらえると思います。人生は旅のようなものと言います。この本を読みながら外の世界・広い世界へ旅に出てください。

主体的に対話する

 先にこの本の目的は「生きる力」を伸ばすお手伝いだと書きました。その目的を少しでも達成するために、本文の中にQ&Aを組み込んでいます。本文の中で質問を受けたり語りかけられたりすることもあります。その時にはそのまま読み流さずに、一歩立ち止まって少し考えてみてください。「当たり前だと思っていたこと」を質問されるかもしれません。そういう時はその当たり前を「ほんとかな?」と少し距離を置いてもう一度考えてみてください。「なぜ?」とか「そう考える根拠は何かな?」とか著者に問いかけながら読むことも重要です。そういう姿勢をこの本では「批判的に考える」姿勢と呼んで重要視しています。

 問いの中には簡単には答えられないものがあるかもしれません。そんな時は、自分でいろいろ調べてみてください。また、自分で考えたり調べたりしても答えが出ない問いがあるかもしれません。その場合でも、考えることを諦めないで、「どこまで答えられるのか、どこから答えられないのか」を考えてみてください。

 そして、考えたことを身近な人と「対話」してみてください。「他者の考え」は「自分にはない視点」を教えてくれる大切な学びのための資産です。逆に見れば、自分の視点が他者の学びに寄与するとも言えます。ぜひとも「対話を通して学び合う」姿勢を持ってください。特に若い人の中には「自分の意見を言う」ということを恥ずかしがったり、なんか目立ってしまって嫌だと感じたり、偏っていると思ったりして敬遠する人がいるかもしれませんが、わたしたち一人ひとりは別々の人間ですから違った考えを持っているのが普通です。そして違った考えを持っているからこそ、「対話」して、自分を知ってもらおう、相手を分かろう、お互いを理解し合おうとコミュニケーションするのです。このことは多様化する社会でますます重要になっています。もちろん分かり合える時ばかりではないでしょう。時には意見が対立してまとまらず摩擦を感じたりイライラしたりそれ以上関わるのが嫌になったりするかもしれません。でもその「対立したり衝突したりする状態を民主的な方法でなんとか調整していくこと」はとても大切な「生きる力」、社会を主体的に生きる「市民」に求められる素養なのです。

生きるチカラ

 このように、各章で取り上げているテーマは具体的で個別的なものですが、そこを入り口としていろいろ考える実践は、今後さまざまな場面や局面で必要になってくるもので、まさに「生きる力」を育てるものです。この本を読みながら、自分で考えたり、友達や先生と一緒に考えたり、時には議論して対立したりといった経験も、高校生や大学生にとってはかけがえのない「生きる力」になるはずです。この本に書いてあることだけが「生きる力」ではありませんが、とても大切で必要なことを書いたつもりです。難しいことばや堅苦しい文章はなるべく使わないようにして書きましたので、軽い気持ちで読んでみてください。

 もちろん、10代[からの]と題しているように、かつて高校生や大学生のような若い世代だった方にとってもいろいろ考えを巡らせることができるものとなっています。ぜひこの機会にすべての世代の方々に手にとっていただきたいと思います。

批判的思考の旅の地図や磁石に

 すべての読者の皆さんにとって、この本が「社会を主体的に生きていく」上での地図や磁石のようなものになればとても嬉しいです。この本をカバンに詰め込んで批判的思考の旅に出てみてください。若い人には若い人なりに可能性に満ちた未来に向けた旅があり、齢を重ねた人は、未来を見据えた旅もできれば、これまで自分が歩んできた確固たる道のりをその時とは別の感性で振り返る旅もできます。どこかで旅人が出会い、旅の道中でこの本を介して世代を超えた対話が生まれるかもしれません。

 この本は執筆者からのプレゼント、餞別のようなものです。興味を持ったのもこのサイトを見たのもなにかの縁です。とりあえず手にとって、気が向いたり時間つぶしが必要になったりしたときにでも軽い気持ちで読んでみてください。本著が社会を主体的に生きるきっかけや手がかりになることを願っています。

 皆さん、良い旅を!

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