話題の超入門書『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた』について著者が改めて振り返ってみた
記事:明石書店
記事:明石書店
本書『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた――あなたがあなたらしくいられるための29問』は、一橋大学社会学部佐藤文香ゼミナールの課外活動の成果です。
ジェンダー研究にあまり馴染みがなく、ジェンダーにまつわるさまざまな問題にもやもやしている、関心があるけど何から学べばいいのかわからない、という人に向けて書かれました。
執筆のきっかけとなったのは、わたしたちが「ジェンダーのゼミに所属している」という理由で投げかけられる多くの質問でした。
たとえば、「女性専用車両は男性への逆差別ではないか?」、「日本はLGBTに寛容な国だよね?」といった、身近ではあるものの、すぐに納得してもらう答えを出すのが難しい質問です。
たくさんの質問を受けることは、それだけジェンダーについての関心が高まっているということでもあり、うれしく思っていました。その一方で、ゼミで学んだことをうまく伝えきれず悔しい思いをしたり、自分自身の理解不足に改めて気がついたりすることもありました。そして、自分たちが学んでいるジェンダー研究の成果を、もっと多くの人に知ってもらいたいと思うようになりました。この本は、わたしたちゼミ生の多くの葛藤や歯がゆさ、希望や願いから生まれたと言えます。
わたしたちが上記のような質問を受けて困った経験を共有するなかで、ゼミの指導教授である佐藤先生から「毎年同じような光景が繰り広げられてきたのだろうから、いっそこれまでに問われたクエスチョンを集めて、みんなでグッド・アンサーを考えて、後輩たちに引き継いでいったら?」と提案されたのが2017年の春ごろでした。
それ以来、実際に尋ねられた問いを集めることから始めて、それらをグルーピングし、担当を決めて原稿を書き上げ、議論するという作業を積み重ねました。
この作業は、毎週のゼミで行われる課題文献の輪読や卒業研究の報告が終わった後に取り組むことにしたのですが、毎回あまりに時間がかかって終了が夜遅くなるため、わたしたちはこれを「残業」と呼んでいました。こうした「残業」を2年ほど続け、ようやく刊行となりました。
回答を考えるにあたって、わたしたちは「大学生の視点」で答えることを意識しました。
専門家が書いた難しい本はたくさんありますが、社会に生きる一般人であり、研究にもほんの少し携わりはじめた大学生という立場を活かして、初心者にもわかりやすく、知識のある人にも読み応えのある本をめざしました。
そのため、ごく初歩的なことから、やや専門的なところまで理解できるような「ホップ・ステップ・ジャンプ」という難易度別の回答方法を採用しています。
出版から1年の間、さまざまなところからいただいた反響をみると、まさにわたしたちが想定していた読者に届いたようで、ゼミ生一同たいへんうれしく思っています。
学び始めの一冊に選ばれたことももちろんうれしいのですが、読んでみて周りのことや自分の経験や態度についてあらためて考えてみることができた、という方や、本の内容を読んだうえで考えたことを発信してくださる方、さらに勉強してみたいという方もいて励まされます。
こうしたお声をいただけて、毎週のゼミで長時間かけてへとへとになりながら内容について頭を悩ませた甲斐がありました。
この本が、手に取っていただけた方たちにとってジェンダーについて真剣に考えるきっかけになれたなら幸いです。
わたしたちは「ここに書かれている回答は唯一絶対のものではない」ということを本の中で強調していますが、その理由のひとつは、本を手に取ってくださったみなさんに、書かれていることを手がかりにしてぜひ自分なりに考えてほしいからです。
すでに読んでいただいた方のなかには、きっと「この回答では納得できない」、「ここにはこう書かれているけど、こうなんじゃないか?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。筆者としては、そういった方にぜひ直接お会いして、ご意見を詳しくお聞きしたうえで、興味深いものについては応答したいところなのですが、それもなかなか難しいのかもしれません。
ですから、自分なりに考えたことを言葉にし、そのことを身近な友人・知人の間で話題にしてもらえたらと思います。
その際には意見がぶつかることも当然あるでしょうが、考えたことを言葉にしてみて、相手の意見に誠実に耳を傾けながら「ああでもない、こうでもない」と話しているうちに、自分ひとりで考えているだけでは見えてこなかったものが見えてくるでしょう。一方的に自分の意見を発信しているだけでは思いもよらなかったものが姿をあらわすでしょう。
筆者のわたしたちも、出版してからの1年間、新たにたくさんの人や情報に出会い、手元の本を読み返してみて現在だったらこういうふうに回答を書くかもしれないなあと思うこともしばしばです。ジェンダーにかんする問題に関心が高まっている昨今、ぜひこの本を題材に身近な問題について意見や経験を共有してもらえたらと思います。