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ノーベル物理学賞に選ばれた「ブラックホール」を深堀りしたいあなたへ 『90分でブラックホールがわかる本』

『90分でブラックホールがわかる本』(大和書房)。背景はノーベル物理学賞について報じた朝日新聞

ブラックホール、知ってるつもり!?

 「ブラックホール」は、”ビッグバン””ダークマター””アクリーション・ディスク”などと同じく天文分野の専門用語(科学用語)です。

 一般の人で”ダークマター”や”アクリーション・ディスク”という言葉を聞いたことがある人は少ないかもしれませんが、”ビッグバン”なら耳にしたことがあるかたも多いでしょう。そして、「ブラックホール」というワードなら、ほとんどのかたが聞いたことがあるのではないでしょうか。

 2019年4月に大きな話題になった「ブラックホール直接撮影成功!」のニュースとともに、オレンジ色のドーナッツのような画像を目にしたかたもいらっしゃると思います。

 とはいえ、「じゃあ、ブラックホールって、何?」と問われて具体的に説明できますか? と、『90分でブラックホールがわかる本』の著者の福江純氏は語りかけます。

 一般的なイメージとしてあがりがちなのは、「真っ黒なもの?」「何でも吸い込む時空の穴?」といった言葉ですが、実はそうしたイメージは、近年の研究によって覆されたり証明が進んだりしています。2019年のブラックホール直接撮像もその成果のひとつ。ブラックホールは光さえ脱出できないほどに強い重力をもつため、真っ黒で見えないはずという常識を覆し、周辺が光り輝いて見えるケースがあることがわかったからこそ、「真っ黒な天体」の撮影が可能となったのです。

 「何でも吸い込む時空の穴」というイメージも、実は吸い込むだけでなく周辺から物質が吹き出すこともあるなど、研究によってさらにいろいろなことが解き明かされつつあります。

アインシュタインの予言とノーベル賞

 そもそも、ブラックホールは、アインシュタインの重力方程式の解から導き出された概念でしたが、それが宇宙空間に実際に存在し得るか否かについては議論と研究が重ねられてきました。また、その実在が理論上証明されてからも、天文学分野の研究によって実際に存在が明らかになるまでには、観測手法の飛躍的向上による観測事実の積み重ねがありました。

 そうした研究に大きく貢献したのが、今回受賞した三氏だったのです。

 2020年のノーベル物理学賞を受賞した三氏のうち、ロジャー・ペンローズ氏は、1965年、「特異点定理」によりアインシュタインの一般相対性理論が示す解が普遍的にブラックホール形成につながることを数学的に証明しました。

 そして、ラインハルト・ゲンツェル氏、アンドレア・ゲッズ氏は、1997年~1998年、天の川銀河(銀河系)の中心に、いて座A*(スター)と名付けられた巨大な重力源があることを、そしてそれこそが、太陽の400万倍の質量をもつブラックホールであることを、周囲の星の軌道の観測により明らかにしたことが受賞理由となりました。

ブラックホールはどのように見つかり、どのように研究されてきたのか

 ここで、アインシュタインの相対性理論からはじまったブラックホール研究について、『90分でブラックホールがわかる本』の中から少し拾い読みしてみましょう。

 まずは、ペンローズの功績に関わるところから……。

 アインシュタインは1905年に提出した特殊相対論(時空と光の理論)で時間と空間を時空として統一し、1916年に完成させた一般相対論(時空と重力の論理)で時空と重力の関係を再構成し、その後の科学を大きく変えた。このアインシュタインが創り上げた一般相対論が、ブラックホールと深~く関わっている。(中略)
 アインシュタインが時空と重力の理論である一般相対論を完成させてはじめて、ブラックホールを正しく取り扱えるようになった。したがってブラックホールは一般相対論の産物といえる。
 とはいえ、アインシュタイン自身がブラックホールを考えたわけではない。ドイツの物理学者カール・シュバルツシルトが一般相対論の複雑な方程式の解として解き明かしたモノがブラックホールの原点なのだ。
(本文より)

 今回受賞したペンローズ氏は、「この解は特殊な条件下でしか得られず現実の宇宙にはブラックホールは生じない」とする研究者が多い中、その実在性を数学的に証明したことが、一般相対性理論に対する重要な貢献として評価されました。

 ほかの二人、天の川銀河の中心に巨大ブラックホールがあることをつきとめたゲンツェル氏とゲス氏の研究については、次の箇所を読んでみましょう。

 地球から眺めると、天の川銀河の中心である銀河系中心は、いて座の方向にある、天の川の中でももっとも明るい領域だ。そして電波天文学が開幕してすぐに、いて座の方向から強い電波が来ていることがわかり、それはいて座A電波源と名付けられた。その後、電波望遠鏡の分解能が向上し、1970年代中頃に、銀河系中心は非常に小さな電波源であると認定され、星のように小さいという意味で、銀河系中心はいて座Aスターと名づけられた。(中略)
 このころにはすでに、天の川銀河の中心にも巨大ブラックホールが存在するだろうと想像されており、1980年代には、多くの星やガスの運行を解析して、たしかに大きな質量が存在することが確認されていたが、なかなか決め手がなかった。(中略)
 しかし、1990年代に入り、赤外線で天体を観測できるようになると、状況が大きく変わった。赤外線は可視光線よりもチリなどを通過しやすい性質があるため、天の川銀河の中心まで見通すことが可能になったのだ。(中略)
 重要なのは、天の川銀河の中心そのものは何も見えなくても、中心領域に存在する星々が見え始めたことだ。なぜなら、もしも天の川銀河の中心を公転する個々の星の運動が観測されれば、ニュートンの万有引力の法則から、中心の質量が明確に推定できるからだ。(中略)
 これらのデータから、天の川銀河の中心の質量は格段の精度で定まり、その後の追加観測なども踏まえ、現在では、太陽の400万倍の質量をもった巨大ブラックホールが存在すると信じられている。(本文より)

 少し長い引用になりましたが、天の川銀河中心のブラックホールの存在を証明するためにいかに多くの努力がなされてきたかがおわかりいただけたのではないでしょうか。

人気漫画家の描き下ろしコミックも!

 謎に満ちた天体の秘密がゼロからわかる『90分でブラックホールがわかる本』の中には、「事象の地平面」「降着円盤」「電磁放射」「赤方偏移」「相対論的輻射輸送」など、聞きなれない用語がいくつも出てきますが、心配ご無用! 

 ブラックホールの固定概念を覆し、探索と発見の歴史をひもとく本書は、読み進むほどにスリリング。『インターステラー』などのSF映画で描かれたブラックホールはどのくらい正確だった? などの検証も織り交ぜつつ、未来にはブラックホール家電やブラックホール発電、ブラックホール都市だって可能かも、という著者のSF魂炸裂のラストでは、こんな発見の時代に生きている喜びさえ感じてしまいます。

 さらに各章冒頭には、『アトム ザ・ビギニング』が人気の漫画家、カサハラテツロー氏が描き下ろしコミックを提供。著者の福江先生と不思議な少年の出会いと軽妙な会話が、読者をブラックホールの世界へ誘ってくれます。コミックに描かれたかわいくて賢い少年の正体とは……?

 知的好奇心をくすぐり、いろいろな楽しみどころに満ちたブラックホール本を読み終えて感じるのは、宇宙と未知なるものへのさらなる憧れかもしれません。

本文より

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