スタンフォード大学の人気心理学者が提言する 心のあり方「ハートフルネス」とは
記事:大和書房
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皆さんは、ハートを大切に生きることが人生に何かの意味を与えることを感じていることでしょう。
しかしそれが現実にどう役立つのか? という問いを持たれるかもしれません。
あなたをはじめ誰でもが、生きている限り(最後の一呼吸まで)つねに変わっていく力を持っています。私がそう確信するのは、多くの人の変容に立ち会い、その人たちの周囲もまた影響を受けて変わった事実を目にしたからです。
長年人生を充実させる秘訣について探求してきた末に、私は「ハートフルネス」こそがその道だと信じるようになりました。それは、スタンフォード大学で粘り強く科学的な探求を進め、実践を重ねてきたからです。
「マインドフルネス」という心のあり方を学生に教える授業はやがて、ハートフルネスの実験室に発展しました。そこで多くの学生たちが、自分自身と社会を変容させる方法を学んでいます。そうした授業の経験が、本書には盛り込まれています。
それは伝統的な智慧と現代のテクノロジー、アートと科学を統合する最先端の試みです。AIの時代にレジリエンスを育てるためには、EI(感情的知性)を強調する必要があります。たとえば、メンタル面の管理、適切な行動の選択、創造性などとともに、人間関係を築く力、共感力、文化的謙遜、リーダーシップも必要なのです。
ハートフルネスの授業で、ある学生が書いた言葉です。
「授業で起こったことはひとつの小さな奇跡でした。私たちは自分の心の中の、仲間との、人との間にある壁を越え、切望していたつながりを求め、努力を続けることが大切だとわかりました。今お互いへの感謝を抱き、ここにいること自体に感謝しています」
私は最近こうした学びを、多くの日本の学生、ビジネス界の人々、教育者やヘルスケアの専門職の人たちにも伝えています。彼らの反応がアメリカの人たちと同様に非常に良かったので、日本の皆さんにもぜひハートフルネスを伝えたいと思ったのです。
ある学生の感想にはこうありました。
「授業を仲間と受けてから、人生に変化を感じました。ありのままの自分が受容できるようになったと思います。完璧である必要はありません。人生でもっとも大事なのは、人を愛することと、与えられたものを精一杯生かすことを忘れないことだと思います」
よくある「本当に私は変われるのでしょうか?」という問いかけに対して、私はハートフルネスで応えます。答えは迷わず「イエス」ですが、一方で「全部は変えないでください、あなたはそのままですばらしいのですから。さらに良くなることもできますし」とも言いたいのです。
変わるための鍵は、自分の内面的な美しさへの気づきです。世界にあなたの真実を表せば、さらにその美を輝かせることもできます。
外の世界への勇気ある旅だけが、安らぎと幸せの探求ではありません。内面の旅、内なる自分自身へと戻ること、見いだされるのを待っているその安らぎの場へ帰ることもまた、そうした旅なのです。
私たちは、この世のほんのひとときの滞在者です。うまくいけば、存在の目的を知ることができるでしょう。意味と、喜びと、幸せを感じながら生きる幸運に恵まれるかもしれません。
しかし、人間として生きるのは簡単ではありません。私たちは、喜びだけでなく、悲しみも含む人生の現実に直面します。
勝つとは限らず、負けることもあります。ハートが愛であふれることがあれば、ずたずたに引き裂かれることもあります。悲しみや孤独、心配や恐れ、無気力や懐疑にとらわれることもあるでしょう。
愛し愛されることだけを望みながら、そうなる前に幾度となく躓きます。満たされず、挫折感を味わいます。そして、いつかは死ぬと知りつつ生きています。
現代は、人類史の中でも生きるのに困難な時代です。私たちは、ジェンダー、人種、国家や宗教などによる、人と人との分断の危機に直面しています。世界は、貧しく、飢えて、快適な暮らしのために最低必要な家、食料、電気や水道さえ持たない人であふれています。経済発展を極めた先進国の中でさえ、不平等と不公正が続いています。
裕福であっても、自然災害や世界規模の感染によって、私たちに暴力と破壊の脅威が迫っています。地球自体が環境の非常事態へと向かっているのです。
「生きている意味などあるのだろうか?」という疑問を持つ人もいます。誰にも答えは出せないでしょうが、私は人生に価値があると心に決め、人にもそう思えるよう働きかけています。
私はいのちを捨てるよりも、この身を奉仕の道に捧げることを選びました。耐え難いときもあり、さまざまな困難もありますが、私は人生に「イエス」と宣言します。
この道を歩みながら、私は自分自身の「スーパーパワー」を見いだしました。私は、思ったよりも大きな勇気とコンパッションを発揮することができるとわかったのです。
私たちは皆、ヴァルネラビリティ(vulnerability、開かれた弱さ)を感じています。多くの人が、未来への愛と幸福の望みを失っているのです。
リーダーたちも救ってくれないのを知っています。テクノロジーも解決してはくれません。魔法も起こりません。では、どうすればいいのでしょう?
逃げ出して社会から身を隠すこともできます。それとも、傷ついた心を抱きしめるでしょうか。状況がどれほど大変でも、生きることと生き方を選ぶことは可能です。
ヴァルネラビリティの中に、目覚めの種があります。私たちは、新鮮な目で世界をとらえ直し、驚くべき可能性に踏み出すことができるのです。
目覚めは、人生の喜び、不思議、美しさへの無限の可能性をもたらします。こうした眼差しが、自分と人へのコンパッション(思いやり)を生み出します。
私たちは、人間の能力と社会変容の新たなヴィジョンによって、世界の暗い見通しを乗り越えていくことができるでしょう。
ヴァルネラビリティの経験は楽ではありません。恐れによって執着していた、今までの安泰で安心な世界観を手放し、未知の冒険に出なければならないからです。
そんなことができるだろうかと、多くの人は思うでしょう。私も確信はありませんでしたが、これこそが自分と人の癒しの道であると、そのようにして現実を生きる姿勢を見せてくれた多くの人の教えによってわかりました。
ハートフルネスは、人生の終末に近づいた人たちの「残念だ。死に向かい合って、私はやっと自分の生き方を見つけたところなのに」という言葉に導かれました。人生は終わりなき学びの連続であるはずです。その旅は、最後の一息まで続きます。それが人間の定めなのです。
私たちは、人生のあらゆる瞬間に訪れる学びの機会をつかみ、向上していくことができます。私の仕事は、死や喪失など何か取り返しのつかない事態が起こる前に、人生での大きな課題をお互いに学ぶ手伝いをすることです。
人生は、最後に至るまで日々の試練を与えますが、私たちは学び続け、変わり続けることができると思っています。
本書では、新しい生き方に向かって目とハートを開き、自分を覆うベールを取り去り、見えてくるヴィジョンに従うことに努めてきた、私の活動の一端を紹介します。
目の前に日々課題はやってきます。私たちは、まだ見ぬ隠れた可能性を引き出し、解放するために、自分と世界に働きかけられるでしょうか?
人間どうしの新しいコミュニケーションに支えられ、愛に導かれて、ハートによって生きることができるでしょうか?
思いやりと、勇気と、やさしさと親しさを持ち、人生には意味と目的があるという価値を信頼して生きることができるでしょうか?
私はその可能性を信じます。本書があなたの旅の良きガイドとなりますように。