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ごみ集積所には、惨劇、哀愁、爆笑のドラマがある!

記事:大和書房

『リアルでゆかいなごみ事典』大和書房
『リアルでゆかいなごみ事典』大和書房

「流木」はごみか? 芸術品か?

 可燃ごみで枝や葉が出されることはよくあるが、何回か妙な木を見たことがある。流木だ! 

 これは枝葉じゃない。海を漂っているうちに木が削れて、浜に打ち上げられた流木をおしゃれだと思って持って帰ってきたが、思ったより使い道がなく、かつ売るに売れないニーズのないものだと気づき、ごみに出したものだ。間違いない。なぜ、そんなことまでわかるのかって? ごみ清掃員ならそこまでわかるのか? 「証拠を出せ!」と言うかもしれない。

 証拠なら僕だ。僕がまったく同じことをしたからだ。テレビ番組のロケで岡山に行った時に、マネージャーが海辺に落ちていた流木を手に取り、「こういうの拾って、持ち帰ったら売れるんじゃねぇ?」と言い出した。なんだったらそんなテレビ番組を見たことがあるという。「1本3000円程度の値段がついていた記憶がある」と言った。

 「おいおい、マジか? 持って帰らない手はないだろ?」と言って、その時に使っていた麻袋をスタッフから譲り受けて、肩が抜けそうな思いをしながら、大小さまざまな流木計10 本程度を岡山から東京まで持って帰ってきたのだ。新幹線の上の荷物置き場に置くのもひと苦労。しかしそれも3万円になるというのならば、お安いご用。

 かくして持って帰ってきたのだが、どうにもこうにも肝心の流木を買ってくれる店が見つからない。一軒、流木を売っている店に飛び込みで「流木を買ってくれ」と言ったら、「東京では買い取る店はないんじゃないですかねぇ」と軽くあしらわれた。

 大丈夫。僕にはフリマアプリがある。おしゃれに写真を撮って1本3000円で出品。うん、売れない。流木出している他の人たちも売れている形跡がない。そうこうして岡山産の流木はごみとなった……。僕と同じ思いをした人がここにいる……同士よ、ドンマイ。

『リアルでゆかいなごみ事典』より
『リアルでゆかいなごみ事典』より

緊急事態を知らせる清掃車

 「迷惑なごみってなんですか?」とよく聞かれる。そりゃ数え切れないほどあって、挙げればキリがない。可燃ごみに割れた茶碗を入れられて手を切ったこともあるし、分別していないごみは、清掃員が目視で分別しないといけないので、そりゃ迷惑だ。ごみ汁がたまっているのも心底辟易するし、「朝から出していたのに何で回収してくれないんだ!」と嘘をつくクレーマーも困ったものだ。もちろん一気に20 袋とか出す人も、ルールを知らないとはいえ困ってしまうし、スプレー缶やモバイルバッテリーを可燃ごみにまぎれさせているなんて清掃員の命も危ない危険行為といえる。

 しかししかし、あえていちばん迷惑なごみといえば、電池が抜かれていない防犯ブザーかもしれない。一度あった。そうとは知らずに清掃車の中に放り込んだら、ずっとウィンウィンウィンウィン鳴っているのだ。清掃車の腹の中に入ってしまえば、もう取り出すことは不可能。「緊急事態です!! 」「大変です!! 」と言いながらごみを回収しているみたいになる。

 なんだかとても恥ずかしいし、さすが防犯ブザーなだけあって、めちゃめちゃ音がうるさい。ごみに囲まれながら、清掃車のボディを通り抜けてウィンウィンウィンウィンずっと鳴っているのよ。住民の方への迷惑もさることながら、ずっと聞いていると頭がおかしくなりそうだった。

 できればごみの中に手を突っ込んで止めたい気分。これ清掃工場に持っていくまでずっと聞いているの? 嘘でしょ? と自問自答をしていたら、

 「いやー、気が狂いそうだ」

 と一緒にいた作業員が言った。「電池抜けって、人の親なら」。なんだか僕はその言葉がツボにハマった。僕の声を代弁してくれたからだろうか。ウィンウィンと緊急事態を知らせながら走る清掃車に、僕の笑い声が響く車内。異質な空間が広がっていた。

『リアルでゆかいなごみ事典』より
『リアルでゆかいなごみ事典』より

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