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街と生活の変化知る公共の財産

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2018年07月28日
ごみ収集という仕事 清掃車に乗って考えた地方自治 著者:藤井 誠一郎 出版社:コモンズ ジャンル:政治・行政の通販

価格:2376円
ISBN: 9784861871504
発売⽇: 2018/06/06
サイズ: 19cm/261p

「現場主義」の若手研究者が新宿区内で9カ月間にわたって、ごみの収集を中心に清掃指導や環境学習などを体験。体験に基づき、清掃という仕事の奥深さ、民間委託の問題点、そして本来…

ごみ収集という仕事 清掃車に乗って考えた地方自治 [著]藤井誠一郎 

 子供が生まれ、紙オムツを始め家から出るごみが前とは比べられないくらい増えると、家のごみ出しはすべて私が引き受けることになった。だから、日々の生活にとって避けられないごみの存在には、多少なりとも意識的なつもりでいた。
 ところが、そのごみが具体的にどのように回収されていくのか、そのあと、どこに運ばれていくのかについては、まったく未知のままだった。他にも、本書を読み進める体験は目から鱗の連続だった。ごみ袋の口はなぜきちんと結ばないといけないのか。汁物の水分はどうしてしっかり切らないといけないのか。作業員の方々との朝の何げない挨拶が、どんなに大きな意味を持つものなのか。どれも知っていたようなつもりでいて、改めて考えさせられることばかりだ。
 もっとも、本書はごみ収集という知られざる仕事の単なる内幕体験記というわけではない。地方自治を専門とする研究者の著者は「現場主義を貫く」というスタンスから、新宿区内で9カ月にわたってごみ収集を体験し、その参与観察の結果に基づき、ごみをめぐる地方自治の現状や課題、今後の展望をまとめている。
 その結果は多岐にわたるが、ごみ収集にかかわる作業員が、実は誰よりも街の道路事情や住環境をめぐるわずかな変化まで知り尽くしていること。それが街の防犯や防災におおいに貢献しうる潜在的な公共の財産になっているかなどには、深く納得した。逆に、どんどん進む清掃作業の委託化が、それらの財産を損ねかねない危惧についても気づかされた。
 現在の社会は依然、大量生産、大量消費、大量廃棄から成り立っている。最後の廃棄の問題に真剣に向き合うことなく、私たちの暮らしに未来はない。本書を読了後、きっとあなたは街をゆくごみ収集車を見る目が変わるだろう。そして次の日から気持ちを新たに、ごみ出しに臨むようになるはずだ。
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 ふじい・せいいちろう 1970年生まれ。大東文化大准教授(地方自治)。著書に『住民参加の現場と理論 鞆の浦、景観の未来』など。