「東大現代文」が最高のリベラルアーツである理由 『東大現代文で思考力を鍛える』
記事:大和書房
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「東大」と聞けば、政治家や官僚など、あらゆる分野で権力を握っている人たちを思い浮かべるかもしれない。
学歴至上主義を見直す機運もあるが、依然として東大出身者が権力を握るケースが多いのが現状だと言ってもいいだろう。
だが、そんな東大が「現代文」の入試問題で、受験生に提示する問題文には、どれも「反権力・反常識」の主張が根底にあり、私たちの固定観念に揺さぶりをかけるものばかりである。
実際のところ東大は、柔軟な思考ができ、激動する時代に自在に対応できる新しい頭脳を求めているのだ。そうした頭脳を持った人材を輩出できなければ、日本の大学の頂点に立つ「東京大学」としての存在理由がなくなるからである。
それならば東大が求めている価値に耳を傾けることで、新しい時代を読み取ることができるのではないか。
東大の現代文入試の問題文は、東大がその年の顔として、まさにメンツを懸けて探してくる文章である。東大の入試問題は文部科学省の役人だけでなく、大方の教育関係者が必ずといっていいほど目を通すものなので、陳腐なものを出題するわけにはいかない。ゆえに、どの文章も面白くて、深いものばかりである。
この世界で生き抜くための、そして人生をより豊かにする教養が、ふんだんに盛り込まれているのだ。
たとえば、2008年度に出題された宇野邦一氏の「反歴史論」は、歴史にとっての「真実」とは何かを問いかける。
2001年に出題されたリービ英雄氏の「ぼくの日本語遍歴」は「言語とアイデンティティ、創作」という問題について読者に考えさせる文章だ。
いずれも、2021年の現代においても重要なテーマである。
ハンディな本書一冊に、現代の英知が凝縮されている。しかも、それをいつでもカバンに入れて持ち歩けるのだ。
さらに、各問題文に一題、実際に入試で出題された設問を取り上げ、論理的な解法を試みている。問題文全体の内容が分かり、しかも、論理力を鍛えるのに適した設問に絞り込んだつもりである。肩の力を抜いて気軽な気持ちで取り組んでほしい。
頭の中で答案を考えてみるだけでも、思考力を鍛える訓練になる。六割以上の答案を作成できたら東大に合格できるのだから、この問題で手応えをつかめれば、実際に過去問を解いてみるのも一興だ。
私たちは今、激動の時代を生きている。否応なく押し寄せてくる膨大な情報に翻弄され、途方に暮れている。
大切なのは、泡のように生まれては消えていく膨大な情報ではなく、その真偽を判別し、自分にとって必要な情報を生かすことのできる真の教養と、それに基づく本物の思考力である。
もちろん本書に収録しているのは、著者の方々の思考のほんの一部分にすぎない。
しかし、東大現代文が、〝本物の教養〟を身につけるための示唆を与えてくれるのは間違いない。