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「小さな」言葉の窓から見わたす、広い世界 『なくなりそうな世界のことば』

記事:創元社

ヒライス:もう帰れない場所に帰りたいと思う気持ち(ウェールズ語)
ヒライス:もう帰れない場所に帰りたいと思う気持ち(ウェールズ語)

 世界で話されていることばは、およそ7,000もあります。皆さんはどれだけのことばを知っているでしょうか。「大きな」ことばも「小さな」ことばもありますが、優れたことばと劣ったことばがあるわけではありません。ことばとは、それぞれが、世界を見わたすための独特な窓のようなものです。どれ一つとして同じ窓はなく、どれもが世界のすべてを見わたせるという意味で、等しい価値を持っています。

本書で取りあげた50言語の分布地図
本書で取りあげた50言語の分布地図

ことばと文化

 ことばと文化。それらの間には互いに密接な関連があり、切り離して考えることはできません。なぜなら、ことばを用いるとき、そこには話し手の暮らしている生活や環境、それに、そこで育まれてきた文化というものが、背景として隠れているからです。ことばとは、ある社会集団の歴史的な遺産であって、長きにわたって持続した社会文化的習慣の産みだした約束事、しくみなのです。ですから、広い地域にまたがって色々な人、様々な文化の中で話されている「大きな」ことばよりも、数少ない人が特定の地域・環境で生活している中で用いている「小さな」ことばのほうが、もっともっと、背景となる文化から生じた知恵や、その生活ならではの認識・理解といったものを色濃く、純度高く反映していることだってあります。そういう意味で、ことばと文化は、表裏一体なのです。

ボロソコモダップ:莫大な量の小さな何かが降る(ドホイ語)
ボロソコモダップ:莫大な量の小さな何かが降る(ドホイ語)

ことばの価値

 コミュニケーションの道具としてことばの経済的な価値を測ると、「大きなことばのほうが多くの人との聞で用いることができる、すなわち、高い経済的な価値を持っているということに疑いはありません。たとえば、中国語普通話(世界1位)なら9億人、英語(世界3位)なら3億7,000万人、日本語(世界9位)でも1億2,800万人もの人が、母語として話しています。そのような多くの人との間で使えることばを覚えることと、少しの人との間でしか使えないことばを覚えることとを比べたら、前者のほうがもちろん魅力的です。そのような取捨選択のもと、今、世界では、メディア・ネット・科学技術の発展とともに、「小さな」ことばが次々に消えていってしまっています。その変化は、当然のことです。けれどもその一方で、文化的な価値が等しく高いにもかかわらず、徐々に担い手がいなくなっていく「小さな」ことばたちがあることに気をとめるのも、大切なことです。なぜなら、一度失われてしまったことばというのは、よみがえることがまずないのですから。

イヨマンテ:熊祭り、熊送り儀礼(アイヌ語)
イヨマンテ:熊祭り、熊送り儀礼(アイヌ語)

 今回、そんな「小さな」ことばの専門家たちに、思い思いの視点で「そのことばらしい」単語を選んでもらい、一冊にまとめました。1ページ、また1ページとめくるたび、考えたこともないような遠いどこかで、聞いたこともないような名前のことばが話されていることに、どうか思いを馳せてみてください。そして、本書に収められたことばから、どんな人たちが、どんな生活の中で、どういう発想のもとでそのことばを話しているのか、想像してみても良いかもしれませんね。

 

*本書の内容は、創元社のYoutubeチャンネルにてご視聴いただけます。

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