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「今IOCに最も影響力があるのは日本人。東京オリンピック中止へ立ち上がる時です」世界的研究者が訴える

記事:作品社

ジュールズ・ボイコフ『オリンピック 反対する側の論理』と友利昴『オリンピックVS便乗商法』(右)。いずれも作品社より刊行。
ジュールズ・ボイコフ『オリンピック 反対する側の論理』と友利昴『オリンピックVS便乗商法』(右)。いずれも作品社より刊行。

TBS「報道特集」に出演し、インタビューに答える著者ボイコフ氏(2021年5月29日放送)
TBS「報道特集」に出演し、インタビューに答える著者ボイコフ氏(2021年5月29日放送)

日本の人々は、東京オリンピック中止に向けて立ち上がる時です

 元サッカー五輪代表選手で米パシフィック大学教授であるジュールズ・ボイコフ氏は、TBS「報道特集」(2021年5月29日放送)に出演し、キャスターの金平茂紀氏のインタビューに答え、次のように語りました。

 「IOCは、出場選手に対して、“参加中にコロナに感染して死亡してもIOCを訴えない、損害賠償を求めない”という条項のある同意書に署名させています。私はこの同意書を読んで、心底、ゾッとしました。大規模な大会で選手が同意書に署名を求められることは、よくあります。私も選手時代、何度も署名しました。しかし、生死に関わることに自己責任だとする条項は見たことがありません。IOCは、選手には安全な方策を取れるとして開催を押し進めています。安全ならば、なぜIOCと組織委の「免責」に同意する必要があるでしょうか」
 「IOCにとって大事なのはIOCであり、選手や日本の人々の健康と安全は二の次だと考えていることは明らかなのです。開催について適切な判断をする時間は、まだひと月あります。今、世界で最もIOCに影響力があるのは日本の人々です。日本からの圧力が必要です。日本の皆さんが開催に懸念をお持ちなら、今こそ立ち上がる時です」

東京2020大会への反対デモの横断幕
東京2020大会への反対デモの横断幕

腐敗しきっているIOC

 では、日本国民の80%以上が開催に反対なのに、なぜIOCは開催を強行しようとしているのでしょうか? 本書の中でボイコフ教授は、理由は三つあるとして、「それはマネーとマネー、そしてマネーのため」と断言しています。「歳入の95.1%がIOCの取り分で、アスリートに渡るのは、たった4.1%」。そして「IOCはグローバルなカースト制度」であり、その委員や関係者を「五輪貴族」と呼んでいます。

 「多額の金がオリンピックというシステムをじゃぶじゃぶ流れていくわけなので、五輪には長年汚職がつきまとってきた。何の不思議もない。ここ数十年だけでも、オリンピックはIOCの恥知らずな委員たちが起こしたスキャンダルに見舞われてきた」
(『オリンピック 反対する側の論理』118頁)

ロス2028大会に反対する現地のデモ隊
ロス2028大会に反対する現地のデモ隊

 本書の中では、その実態が次々と明らかにされていきますが、日本に関わる一例を挙げてみましょう。

 「1998年冬季大会の招致レースでは、長野の招致委員会がIOC委員に大量のプレゼントを贈った。62票を獲得するために使われた額は一人平均2万2000ドルにものぼった。IOCは1991年、委員への贈り物の上限を200ドルとする決まりを設けていたが、長野の招致委員会はそのルールを破っていた。長野の招致委員会には、大会後すべての記録をシュレッダーにかけたという疑いがあり、さらなる不正行為の証拠を隠滅したと考えられている」
(同書118頁)

パリ2024大会への反対行動を、エッフェル塔の前で行なうパリ市民
パリ2024大会への反対行動を、エッフェル塔の前で行なうパリ市民

 さらに、今回の大会の東京招致でも、

 「日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長[(当時)]が、贈収賄計画でフランス当局に摘発された」
(同書120頁)

 「2019年1月、竹田は、シンガポールに拠点を置くブラック・タイディングスという会社への200万ドルの支払いを承認した汚職容疑で起訴された。彼はこれらの支払いがコンサルティング業務のためだったと主張しているが、フランス当局はこれが、セネガル人ブローカーのパパ・マッサタ・ディアックへの賄賂だったと考えている。パパ・マッサタ・ディアックはブラック・タイディングスの口座につながりがあり、元IOC委員で国際陸上競技連盟会長でもあったラミン・ディアックの息子である。ラミン・ディアックは、フランスで汚職や薬物検査の結果を隠蔽したり、選手を脅迫したりした容疑により、IOCからも国際陸連からも追われ、自宅軟禁下にある。フランスの検察は、日本からの金はラミン・ディアックにあてたものだったとしている。(…)ようするに、IOCの上層部は、オリンピックへの信念と前科の両方を抱えている者たちなのだ」
(同書121頁)

今世界の多くの人々が「五輪はいらない」と叫んでいる

 今世界で多くの人々が「五輪はいらない」と叫んでいます。2024年パリ大会、2028年ロス大会にも、現地で大規模な反対運動が起こっています。例えばロスでは、今や20、30代の若者の6割以上とされるバーニー・サンダース支持者たちが中心になって反対運動を進めています。五輪大会による都市開発が、格差拡大によってますます増加する社会的弱者をさらに追い詰めていること、金儲けのための過度な商業主義によって選手を使い捨てにしていることへの批判からです。

 ボイコフ教授は、「21世紀のさまざまな社会的公正を求める運動がこぞって、ますますオリンピックというイシューで火花を散らすようになっている。(…)本書はそれを検討するものだ。執筆にあたって依拠したのは、反五輪アクティビストへの延べ100回を超えるインタビュー、ロサンゼルス、リオデジャネイロ、ロンドン、東京の抗議行動での自分の体験、学術研究、マスメディア・独立メディアの報道、オリンピックのアーカイブである」(同書27頁)と述べています。

バンクシーが描いたとされる“オリンピック反対”のストリート・グラフティ
バンクシーが描いたとされる“オリンピック反対”のストリート・グラフティ

 では、IOCが中止を判断することはあるのでしょうか。ボイコフ教授はこう語っています。

 「開催をすることが五輪のブランドイメージに甚大な損害を与える状況だと判断したら、踏み切る可能性があるでしょう」。中止をしたからといって「世界が、東京、そして日本を批判するなんて想像もできません」。日本の皆さんと世界の人々が力を合わせてIOCに中止に追い込むことが「人類愛の連帯を示す行動です」
(『朝日新聞』インタビュー、6月3日付掲載)

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