寝室のダニ退治はこれで! 〜「ダニ」を科学的に知る
記事:朝倉書店
記事:朝倉書店
屋内のあらゆる場所からダニを採取できるほどダニ分布は広範囲である。白っぽい感じのお茶1gから1000匹以上のケナガコナダニが見つかったり、田舎から送られてきたお米の袋の内側をコナダニ類とチリダニ類が多数闊歩していたり、スパゲッティの穴に入り込んだシバンムシに寄生したシラミダ二Pyemotes entricosus(シラミダニ科)に刺されたり、洗濯機の蓋付近でウロウロしているチリダニ類がいたり、夏に閉めておいたほりごたつ内にナミホコリダニが異常発生していたり、土壁でカザリヒワダニが繁殖していたり、冬期に圧縮袋内の布団を出したら布団表面をチリダニ類がウヨウヨしていたりと、思いもよらないところのダニのエピソードは数知れない。屋内でダニを見つけにくい場所は浴室と便所のみである。
ここでは屋内生息性ダニ類の4大生息場所である畳・絨毯・寝具・保存食品のうちで寝具を扱い、特に寝室空気中のアレルゲンにふれる。
睡眠中に咳き込んだりするとき、布団や枕のダニアレルゲンが空気中に飛散して、それを吸い込んでいる場合がある。ダニアレルゲンとはダニの糞や虫体で、糞は:DerIで表し (Derはヒョウヒダニの属名Dermatophagoidesの頭3文字から)虫体はDer IIで表す。脱糞直後の糞は10〜40μmでも乾燥すると数μmになり、軽いので空気中に浮きやすいし、気管に入りやすい(気管に入るのは10μm以下の大きさ)一方、虫体の脚や毛は取れやすいが体の中央部分(胴体部)は粉々になりにくいし、死骸でも 1μg 以上はあるので空気中には浮きにくい。糞は下記の理由で問題になる。
①糞は小さく気管に入りやすい。
②糞量は虫体量よりも多い。1匹が一生に約500個の糞をするので、床面のアレルゲン量のほとんどは糞由来である。
③糞の方がアレルギー活性が高い。糞中のタンパク質(分子量約2万4000)の方が体のタンパク質(同約1万 5000)よりもヒトにアレルギー反応を起こしやすい。
本節で寝室の空気を取り上げるのは、寝ている間に鼻炎や喘息になりかねないからである。
床面のダニ数にかかわらず、人や動物のいない空気の動かない部屋ではDerⅠ量はゼロに近い(1pg/㎥以下)。居間では平均30pg/㎥(7.6〜116pg/㎥)で寝室では平均100pg/㎥であるものの、枕元では650pg/㎥(平均220pg/㎥)にもなる(坂口ほか,1991)。人の呼吸量は1時間に約0.6㎥なので、8時間寝れば3.12ngを吸い込むことになり、チリダニの糞10個分を吸い込んで寝ていることになる(チリダニの糞1個のDerI量=約0.3ng)。
シーツ、掛布団カバー、枕カバー、 敷布団、掛布団、枕表面のダニ数を比べると、枕カバーや枕のダニ数は多い傾向である(図1)。なぜ多いのかを調べた。
5年間洗わずに使用し続けた枕カバーを用いたDpの誘引率は40%に近い(図2;長塚ほか2003)。誘引する揮発成分を調べると、アルデヒドではノナナールの誘引率が高く。脂肪酸ではパルミチン酸が高かった。遠くにいるチリダニ類を高揮発性のノナナールが引き寄せ、近くに来たら低揮発性のパルミチン酸が誘引するのであろう。チリダニ類のパルミチン酸好きは相当なものである。ヒトからの分泌物であるノナナールやパルミチン酸にチリダニ類が誘引され、枕周辺に集まり糞をするから、寝返りするたびにDer Iが飛び散るのであろう。
寝具と寝室のダニやダニアレルゲン制御法を列挙する。
①洗濯すると、シーツや枕カバーのダニやアレルゲンは90%以上落ちる、ただし、毛布など厚手のものの場合はDerIは9割落ちるが、ダニ本体は2割程度しか落ちないとされる。
②チリダニ類はヒトのふけを好むので、枕の上に大きなタオルを広げ、タオルのみを毎日交換する。タオルはまとめて洗う。生きているダニはタオルのような布地を好むし、生きているダニのみが糞をする。
③羽毛布団と羊毛布団は側生地の目が細かくダニは布団内部に入りにくいので、布団表面のダニ数が100匹/㎡以下、DerI量は1000g/㎡下(1ng/㎡以下)になるように掃除機をかける。布団表面1㎡を5分間ずつ2回かけると、表面のDer量は7割以上除去できるが、簡単な掃除機かけでも4〜5割は除去できる。綿布団の場合は掃除機のみではアレルゲンの除去は難しいので、年1〜2回は丸洗いに出す。
④圧縮袋内でダニは窒息死はしないが、乾燥剤を入れると乾燥死する。
⑤最近市販されている「ダニ取りマット」も有効である。
⑥空気清浄機を使用する場合、枕元近くに置くとダニの糞が吸引される。
⑦アレルギー疾患が気になる人は、30cm以上の高さのあるベッドに寝る。細かいダニアレルゲンや空気中の軽い汚染物は床面までは落ちず、床上20cmくらいを浮遊する場合があるからだ。
※チリダニ類:コナヒョウダニDf,ヤケヒョウヒダニDp
※単位:g→mg→μg→ng→pg 1000分の1づつ小さくなる
引用・参考文献
長塚路子ほか(2003)ふとん・カーペットの手入れに関する研究Ⅲーダニ誘引の原因解析とその低減方法についてー.日本家政学会報告集,5:214
坂口雅弘・井上 栄・吉沢 普(1991)布団内アレルゲンの除去方法の評価.アレルギー,41(4):439-443