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台湾のソーシャルワーカーが教えてくれた真の貧困支援! ホームレスの「仕事」10選 

記事:白水社

〈ここには、「助け合いの原点」が描かれている〉と、雨宮処凛さん推薦! 李玟萱(リー・ウェンシュエン)著『私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩』(白水社刊)は、台湾の10人のホームレスと、彼らを支援する5人のソーシャルワーカーの人生を鮮やかに描くルポ。行政と民間による、貧困支援のあるべき姿とは。
〈ここには、「助け合いの原点」が描かれている〉と、雨宮処凛さん推薦! 李玟萱(リー・ウェンシュエン)著『私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩』(白水社刊)は、台湾の10人のホームレスと、彼らを支援する5人のソーシャルワーカーの人生を鮮やかに描くルポ。行政と民間による、貧困支援のあるべき姿とは。

路上の神話

ホームレスはみな食いしん坊の怠け者か?
 70パーセントのホームレスは仕事をしているが、多くは特殊な内容で収入は限られ、不安定である。彼らがよく従事する職種は、人間看板、建築現場での肉体労働、チラシ配布、出陣頭、資源回収、雑誌販売、給付代替就労などで、大半は多大な労力を要するわりに収入は微々たるものである。一部の仕事は非常に危険でさえあり、保険もなく、多くのホームレスは労災が原因で路上生活者になってしまう。仕事のあるホームレスは慈善団体で食事をする頻度は減るものの、収入は低く不安定なため部屋が借りられず、健康保険料も負担できない。
 
ホームレスが集まるのは食べ物があるからで、食べ物を配りさえしなければ自然に消える?
 ホームレスが集まるのは食べ物の他に、仕事、社交、安全などを考えてのことであり、食べ物のルートを中断するのは追い払うことに等しく、問題を真に解決することにはならない。むしろ良い方法は、資源の投入を増やし、ホームレスの状況から脱出できるよう支援することだ。
 
ホームレスはみな自由を愛し、外で暮らすことを願い、他人に管理されたくない人か?
 生まれながらに放浪を愛する人はごく少数で、90パーセントのホームレスは経済的な苦境から部屋が借りられず、路上生活に陥ってしまうのだ。シェルターの管理は日増しに厳しくなり、ホームレスも入居したがらない。もしホームレスに「中途の家」など一時的宿泊施設への入所を勧めたいなら、収容施設の管理や居住のクオリティーを改善することこそ一番の近道だろう。
 
ホームレスはみな生活が滅茶苦茶で、不潔なのか?
 多くの人は、ホームレスは風呂に入らず、不潔で、体からは悪臭がプンプン漂ってくると思っているが、実際、決してそうではなく、ホームレスの多くは場所を探して入浴している。だが、入浴施設は不便なため、回数は多くない、本当に汚いホームレスはごく一部なのだが、これがホームレスに対する市民一般のイメージになっている。
 
ホームレスはすべて精神的に問題のある人か?
 ホームレスの中には当然精神疾患者がいるが、ごく少数である。メンタルヘルスはホームレスにとってかなり重要な課題であり、ホームレスの鬱傾向は社会全体の平均値の5倍である。ホームレスの中には、精神疾患にかかっても適切なケアと援助が受けられず、そのために仕事ができなくなったり、職場で和やかな人間関係が築けなかったりして、路上に出てきた人もいる。メンタルヘルスのサポート範囲を施設から路上にまで延長することこそ有効な支援方法である。

  李盈姿(台湾芒草心マンツァオシン慈善協会秘書長)

 

ホームレスの「仕事」10選

❶人間看板

台北市公館 2013年
台北市公館 2013年

 人間看板とは、路上の決まった場所で大型の広告看板を掲げて通行人に広告を見せる仕事で、一番多いのが不動産広告である。この仕事は通常、ポスティング会社が募集した臨時工が行い、日給は約700~800元(約2,600~3,000円)で、ホームレスが最もよく従事する臨時仕事の一つである。通常、臨時工が決められた場所に集合すると、会社の車が彼らを乗せてそれぞれの場所で降ろし、夕方、また一人一人をピックアップし、賃金を支払う。労働時間は8時間と規定されているが、会社の送迎や列に並んで証明書を確認し、賃金を受け取る時間を加えると、往々にして合計10時間から11時間はかかってしまう。投資収益率は低いが、多くの底辺労働者にとっては止むを得ない選択である。

 

❷個人事業主

台北 2014年
台北 2014年

 一部のホームレスは非営利組織の協力を得て、イノベーション養成事業に参加し、ミクロ経済的な自営スタイルを生み出している。比較的成功した例として、人安基金会の指導による「シングルマザーの焼き芋売り」や、桃園市安欣関懐協会〔社団法人桃園市安欣関懐協会は、2015年10月に設立された。翌年から桃園市政府社会局社会救助課の委託を受け、ホームレスに対し全方位的な支援を行っている。「路上者コーヒー」は成功した例だが、他にもホームレスを対象としたアウトリーチ業務、一時生活支援業務、就労サービス、医療サービス、食事・入浴サービスの提供、セックスワーカーの保護などを行っている〕の指導で生まれた「路上者コーヒー」がある。この種の事業はメディアの宣伝によって大衆の注目を一時的に集められるものの、商売を続けて安定した顧客層を積極的に開拓できなければ、往々にして一時の徒花で終わってしまい、永続的な経営はできない。

 

❸『ビッグイシュー』の販売

 『ビッグイシュー』は1991年にロンドンで創刊された雑誌。内容は、時事から社会的課題、芸術・文化情報にまで及ぶ。仕入れるのはホームレスや社会的弱者で、彼らがこの雑誌販売を通して自活し、個人の自信と尊厳を回復して生活の主導権を取り戻すことを目的とする。台湾版は2010年に大智文創志業有限公司が版権を取得して創刊した。仕入れコストは売値の50%で、一冊の販売で路上の販売者は50元(約180円)の収入を得られる。販売場所の多くは地下鉄出口や駅など人出の多いところである。

 

❹出陣頭

 ホームレスがよく手がけるもう一つの臨時の仕事は「出陣頭」である。廟会、すなわち廟の縁日のめでたいお祭りは「紅陣頭」、葬儀や埋葬などは「黒陣頭」と呼ばれる。廟会の活動中、ホームレスは旗を担いだり、風帆車(ジャンクの帆の形をしたリヤカーのような車で、廟の祭りには欠かせない)を押したり、比較的簡単で専門技術の要らない仕事を担当する。一方、黒陣頭では、ホームレスは葬列隊の一員になったり、旗や棺を担いだりする。こうした陣頭活動で、ホームレスはささやかな収入が得られ、衣類や軽食も無料で供される他、大事なのは一時的にでもどんよりとした暗さから抜け出て、地域社会の賑やかな気分に触れられることである。

 

❺街歩きガイド

ガイドの阿俊 台北市西門町 2016年
ガイドの阿俊 台北市西門町 2016年

 「街歩き」(中国語では「街游」jiē yóu。ホームレス「街友」jiē yǒu と言葉遊びになっている)は芒草心慈善協会がロンドンのUnseen Tour から触発されて進化させた台北の街歩き活動である。ガイドはいずれも野宿経験者で、漂泊の人生と路上のサバイバル経験のため、一般の人とは視点が異なる。このような活動を通して、観光客はホームレスの視点から台北の別の一面を探検できるだけでなく、ガイドもその中から自信と経済的な自立の機会をつかんでいる。

 

❻チラシ配り、ポスティング

台北市西門町 2015年
台北市西門町 2015年

 チラシ配りとポスティングを行うのは通常、人間看板と同様に広告会社傘下の派遣スタッフである。仕事の内容は広告宣伝品(チラシ、ティッシュペーパー、プレゼント)をクライアントの指定した場所を拠点に交差点や街頭に立ち、対象の通行人に配って広告宣伝効果を図ることである。よくあるチラシ広告は、不動産広告や民間の貸付ローンなどである。

 

❼資源回収

台北駅裏 2015年
台北駅裏 2015年

 商店のゴミ掃除や資源の分類・回収なども多大な労力を要する仕事だが、誰にでもできるので、ホームレスの中にはこれに頼って暮らしているものもいる。回収した各種資源は整理・分類した後、資源回収ステーションや家具・家電回収機関に運ぶことになっている。基礎体力と運搬用具が欠かせないため、病弱なホームレスにとってはどうしても敷居が高い。

 

❽理容師

理容師の方(ファン)さん
理容師の方(ファン)さん

 ファンさんは若い頃、美容師として台北と香港で働いた。ヘアデザインの仕事を熱愛していたが、実人生の巡り合わせでその仕事を中断してしまう。芒草心協会の初めての活動で、再び髪を切ったり梳いたりして、彼はこの仕事に対する情熱を思う存分発揮した。

 

職業集団「起業工作室」

起業工作室
起業工作室

 芒草心協会は技術をもつホームレスを路上から探してきて、「自助から他者支援へ」を理念とした職業集団「起業工作室」を設立した。主な目的は社会的弱者のための住宅の修繕である。プロジェクトを通して、資金の申請と募集を行い、弱者家屋の修繕に必要な財源を調達すると同時に、修繕が必要なのに負担できない弱者を積極的に掘り起こしていく。修繕の機会があれば技術者は報酬が得られ、一つの修繕費で二つの家庭が「立ち直る」のをサポートすることができる。

 

玉蘭花ユーランホワ売り

台北市西門町(楊運生撮影) 2015年
台北市西門町(楊運生撮影) 2015年

 一部のホームレスや経済的弱者は玉蘭花(ユーランホワ)を路上販売のアイテムに選ぶ。通常、路上販売者は「卸売業者」に固定の数量を予約して販売するのだが、玉蘭花の保存期限は一日だけなので、当日売れなければ、それ以上は売れない。また、玉蘭花は買い切りのため、路上販売者は損失のリスクを自ら負わねばならない。彼らの多くが寺廟のそばに集中しているのは、廟の信徒たちは玉蘭花を買って神に捧げるだけでなく、一般的に慈悲深いため、弱者を見ると買ってくれるからである。

 

【李玟萱著『私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩』(白水社刊)より】

 

『私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩』目次より
『私がホームレスだったころ 台湾のソーシャルワーカーが支える未来への一歩』目次より

 

【『無家者』オーディオブックの抜粋動画】

 

【李玟萱さんと李盈姿さんインタビュー動画】

 

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