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ありそうでなかった総ルビ地図帳――今尾恵介さんが語る『ふりがな日本地図帳』の画期性とは

記事:平凡社

『難しい地名もスラスラ読める! ふりがな日本地図帳』p.12-13より
『難しい地名もスラスラ読める! ふりがな日本地図帳』p.12-13より

『難しい地名もスラスラ読める! ふりがな日本地図帳』(今尾恵介・コラム監修、平凡社地図出版・編、平凡社刊)
『難しい地名もスラスラ読める! ふりがな日本地図帳』(今尾恵介・コラム監修、平凡社地図出版・編、平凡社刊)

「読よめているつもり」に気きづく画期的かっきてきな地図ちず

 上・田・という土地とちに住すんでいたことがあるが、この地名ちめいを目めにした人ひとのほとんどが「うえだ」と読よんだ。長野県ながのけんの城下町じょうかまち・上田市うえだしは有名ゆうめいだし、姓せいも「うえだ」さんしか思おもい浮うかばない。口頭こうとうでも電話口でんわぐちでも誰だれもがそう読よむので、最初さいしょは本来ほんらいの読よみ方かたの「かみだ」にいちいち訂正ていせいしていたが、そのうち面倒めんどうになった。調しらべてみると、上・田・の読よみは他ほかに「うわだ」(富山県とやまけん氷見市ひみし)、濁点だくてんなしの「うえた」(沖縄県おきなわけん豊見城市とみぐすくし)や「かみた」(福井県ふくいけん小浜市おばまし)などの例れいがある。東京都とうきょうと大田区おおたくのバス停ていには「じょうでん」も。簡単かんたんそうに見みえて読よみを確定かくていできない日本にほんの地名ちめいの難むずかしさだ。

 神戸市こうべしは誰だれもが知しる大都市だいとしであるが、『角川かどかわ日本地名にほんちめい大辞典だいじてん』で調しらべてみると、全国ぜんこくの「神・戸・」と表記ひょうきする地名ちめいのうち最もっとも多おおいのは「ごうど」で14例れい、次に「かんべ」が9例れい、「かんど」が2例れいと続つづく。「こうべ」は「こうど」「じんご」とともに1例れいずつしかない。ついでながら、この地名ちめいは神社じんじゃを維持いじするために住民じゅうみんが租税そぜいや労役ろうえきを提供ていきょうする土地とちに由来ゆらいしている。

 簡単かんたんそうで難むずかしいのは「町・」と「村・」も同様どうようだ。自治体じちたいの町村ちょうそんは東北とうほくから関東かんとう、北陸ほくりくまでがおおむね「まち」、北海道ほっかいどうと西日本にしにほんが「ちょう」、九州きゅうしゅうは混在こんざいといったところだが例外れいがいも多い。村・はほとんど「むら」だが、沖縄おきなわ全域ぜんいきと中国ちゅうごく、四国しこく、九州きゅうしゅうの一部いちぶは「そん」。読よみ方かたにはそれぞれ歴史的れきしてき経緯けいいがあっても法則ほうそくはなかなか見みいだせない。

 これが市町村しちょうそんの中なかの「町・」となると、もうお手上てあげげ状態じょうたいである。東京とうきょうメトロ銀座線ぎんざせんでは田原町駅たわらまちえきの隣となりに稲荷町駅いなりちょうえきがあるし、都営とえい地下鉄ちかてつ新宿線しんじゅくせんの電車でんしゃが神保町じんぼうちょうを出でると次つぎは小川町おがわまちだ。武家町ぶけまちが「ちょう」で町人町ちょうにんまちが「まち」など原則げんそくのありそうな町・も存在そんざいするが、合併がっぺいや町名ちょうめい変更へんこうで一貫いっかんしていないものが多おおい。

 JR関西本線かんさいほんせんの前身ぜんしんは関・西・鉄道てつどうで、明治めいじ30年代ねんだいには東海道本線とうかいどうほんせんと名古屋なごや~大阪間おおさかかんでサービス競争きょうそうを繰くり広ひろげていたが、「かんさい」と「かんせい」のどちらなのか、肝心かんじんの読よみ方かたは今いまも定さだまっていない。当時とうじの社内文書しゃないぶんしょでさえ揺ゆれがあり、ルビが多おおかった明治期めいじきの新聞しんぶんや雑誌ざっしが助たすけになりそうに見みえて、残念ざんねんながら信頼度しんらいどは低ひくい。当時とうじの実態じったいとしては、おそらく人ひとそれぞれで読よんだのだろう。そもそも日・本・の国号こくごうからして「にほん」「にっぽん」の2通とおりというお国柄くにがらでもある。

 それほど厄介やっかいな地名ちめいの読よみ方かたであるが、これまでの地図ちずでは難読なんどく地名ちめいのみにルビを振ふるのが原則げんそくであった。このため冒頭ぼうとうに挙あげた「上田かみだ」のような地名ちめいを確実かくじつに読よむことはできない。これまでの長ながい歴史れきしの中なかで、総そうルビの地図帳ちずちょうが少すこしはあっても良よさそうなものだが、管見かんけんの限かぎりでは実現じつげんしていない。おそらくスペースの問題もんだいだろう。限かぎられた地図ちずの空間くうかんに少すこしでも多おおくの地名ちめいを載のせるためにルビは大おおきな障害しょうがいとなるからだ。

 それらの困難こんなんを克服こくふくして刊行かんこうされたこの『ふりがな日本地図帳にほんちずちょう』は、地名ちめいの読よみを確定かくていできるという見地けんちからすれば、まさに快挙かいきょである。もちろん「言いうは易やすく」で、いざ実際じっさいに地図ちずにルビを詰つめ込こんでみるとさまざまな困難こんなんが発生はっせいしたらしい。まずは煩雑はんざつさを避さけるべく、本体ほんたいの漢字かんじとルビの書体しょたいや大おおきさを検討けんとうし、配列はいれつについては原則げんそくとして横書よこがきで統一とういつした。前述ぜんじゅつの「ちょう」「まち」についてもすべて例外れいがいなく記載きさいされ、地名ちめいの性格せいかく――自治体じちたいと大字おおあざなどの階層性かいそうせいや自然地名しぜんちめい、名所めいしょ旧跡きゅうせきなどの性格せいかくによって色分いろわけも行おこなった。山河さんがや海峡かいきょう、島しまなどを表あらわす自然地名しぜんちめいは隣接りんせつする2県けんで読よみが異ことなることも珍めずらしくなく、その点てんは可能かのうな限かぎり地元じもとの読よみを探さぐる努力どりょくを行おこなった結果けっかが表示ひょうじしてある。

 少すこしでも多おおくの方かたがこの地図帳ちずちょうを手てに取とり、さまざまな地方色ちほうしょくに彩いろどられた日本にほんの地名ちめいを、ぜひ声こえに出だして読よんでいただきたい。

(本書巻頭言を転載)

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