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書店主は毎日がサバイバル! バイセル『ブックセラーズ・ダイアリー』

記事:白水社

ネット書店時代の荒波に立ち向かう! ショーン・バイセル著『ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年』(白水社刊)は、変わり者の店主と奇天烈な客をめぐる、波乱万丈な人間模様と奮闘の記録。
ネット書店時代の荒波に立ち向かう! ショーン・バイセル著『ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年』(白水社刊)は、変わり者の店主と奇天烈な客をめぐる、波乱万丈な人間模様と奮闘の記録。

 1990年代のこと、スコットランド政府が地方都市再生のために打ち出したブックタウン構想に名乗りを上げた6つの町から、最終的に審査に勝ち残ったのがウィグタウンだった。当時この町は国内でも最悪の失業率に苦しみ、美しい歴史的建造物の数々も朽ちかけていたという。1999年、ウィグタウンはスコットランドのナショナル・ブックタウンとして新たなスタートを切る。小規模ながら、同じ年にウィグタウン・ブックフェスティバルも始まった。

 2年後の2001年、30歳のショーン・バイセルは、生まれ故郷のウィグタウンでクリスマスの帰省中にふらりと入った古本屋を銀行ローンで衝動買いしてしまう。諸々の手続きを経て、次の年には晴れて自分の店を手に入れた。それから20年、ショーンの店「ザ・ブックショップ」は10万冊の在庫を擁するスコットランド最大の古書店となり、ウィグタウンには世界中から本を愛する観光客が訪れるようになった。ウィグタウン・ブックフェスティバルは年々規模を拡大して、予約の取れない大人気イベントへと成長した。

 とはいえ、ここは厳寒のスコットランド。冬になれば客足はぱたりと途絶える。築約200年の建物は維持費が嵩むいっぽうだ。さらに個人書店の行く手に立ちふさがる巨大資本アマゾンと電子書籍化の波。書店をアマゾンの下見場所か託児所ぐらいに心得る傍若無人の客たち。個人書店の店主は、毎日がサバイバルゲームだ。

 本を書くべきだと勧められたショーン・バイセルが、2014年2月から1年間書きつづった日記をまとめて2017年に出版すると、瞬く間に世界的ベストセラーになった。それがこの本の原著、The Diary of a Bookseller(ある古書店主の日記)である。気を良くした著者は2020年に続編 Confessions of a Bookseller (ある古書店主の告白)、さらに店を訪れる客を七種類に面白おかしく分類した Seven Kinds of People You Find in Bookshops(古書店で出会う七種類の人たち)を出版して、いまやすっかり波に乗っている。どうやら連続テレビドラマ化の権利も某社が買い取ったらしい。たしかに肥大化した店猫キャプテンがいて、日々思いがけない小さなドラマが展開される古書店の日常は、連続ドラマにはぴったりのセッティングになるだろう。

 個人的には、1日の終わりにさらりと出てくるショーンの読書記録も一押しだ。本書によれば小説を買うのはほとんどが女性だというが、当のショーンは大の小説好き、そして実は訳者と趣味がとても似ている。翻訳するにあたり、原著に出てくる本はできるだけ目を通すようにしているのだが、今回は多すぎてさすがに無理だった。それでも何冊かは嬉しい出会いを与えてもらった。特に、全編を通じてもっとも詳しい説明とともに絶賛されているジョゼ・サラマーゴ(1998年ポルトガル初のノーベル文学賞受賞)の『白の闇』は、原因不明で失明する疫病があっというまに蔓延していくという、まさにコロナ禍を予知したとしか思えない設定で、衝撃的な読書体験となった。機会があればぜひ、とお薦めしておきたい。

ショーン・バイセル『ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年』(白水社)P.150─151
ショーン・バイセル『ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年』(白水社)P.150─151

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 店はコロナ禍でのロックダウンで長期の休業を強いられたが、2021年4月ごろから再開しているらしい。

 なお、ショーンはついにアマゾンを介した販売をやめ、自前のオンラインショップを立ち上げた。興味のある方は、https://www.the-bookshop.com/ をご覧いただきたい。ランダム・ブッククラブはますます会員を増やしており、送料を支払えば日本からも入会することができる。ザ・ブックショップはアマゾンで古書を売ることをやめたが、ショーンの3冊の著書はキンドル版がアマゾンで好調な売れ行きを見せている。これについて彼はフェイスブックに、「腹ぺこのときにベーコンロールを勧められたヴィーガンの気持ちがやっとわかったよ」と書いている。

ショーン・バイセル『ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年』(白水社)「訳者あとがき」より

 

【著者によるリーディング動画:Diary of a Bookseller】

 

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