二人の主人公が互いを補い合うような関係性
主人公・篠川栞子を演じるに当たっては、大きなプレッシャーを感じていました。原作小説の表紙には彼女のビジュアルがすでに描かれています。当然、読者の方々はそのイメージが頭にあると思うので、どこまでそのイメージに寄せていくかが難しかったです。一方で、少し伏し目がちで人と目を合わせるのが苦手なところや、本の話になるとスイッチが入り、生き生きと話し始めるところ、本を読む姿勢や朗読の声、細かなしぐさなども含めて、彼女らしさを丁寧に演じていくことを心がけていました。
栞子には、本に対する愛情は真っすぐで揺るぎないのに、人との関わり方は不器用という極端なところがあり、そこがまた魅力でもあると思います。もう一人の主人公・五浦大輔は本が読めないけれど、栞子から本の話を聞くのが好きな青年。ピュアで行動力があって、人に対しても真っすぐです。二人はそれぞれが生きてきた世界を見せ合うと同時に、互いの欠けているところを補い合っているようにも見える。私自身も自分の気持ちを人に伝えることが得意ではないのですが、この二人の関係性はとてもいいなと思うんです。
手にした古書を通して人と人とがつながる瞬間
大学生だった頃は古書店に足繁く通っていました。少しかび臭い古書の匂いも好きですし、紙がヨレていたり書き込みがあったり、よく読まれていたのがわかる本は興味をそそられます。大事なところに線が引かれている本もありますが、読んでいて、なぜそこに線が引かれたのかがわかった時は、会ったことのないその本の読者と自分の感じたことがつながった瞬間のような気がして、感動的です。そうした体験は、古書でなければ味わえないと思うんです。
本は、様々な人をつなげてくれるもの。本を読んで想像力が豊かになったり、知識を得たりするだけでなく、本の貸し借りや本について語り合うことで、人と人とがつながることができます。この映画でいえば、一冊の古書を巡り、今を生きている人たちと過去の人たちの想いまでもがつながっていきます。モノとして残る本だからこそ、時を超えて人をつなぐことができるところに、本の力というものを感じますね。
本作には数多くの太宰治の作品が登場します。私が一番好きな『人間失格』の他、物語の重要な鍵を握る『晩年』、『グッド・バイ』など。太宰以外にもたくさんの名著が様々な形で出てくるので、そうしたところも楽しんでもらえるとうれしいです。(談)