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放浪の天才貼り絵画家・山下清。その細密でかわいらしい人物描写に注目――別冊太陽『山下清』より

記事:平凡社

放浪の天才画家・山下清(別冊太陽『山下清 あるがままの自分に正直に生きよ』44頁より)
放浪の天才画家・山下清(別冊太陽『山下清 あるがままの自分に正直に生きよ』44頁より)

汽車道を歩いているところ 鉛筆画(別冊太陽『山下清 あるがままの自分に正直に生きよ』53頁より)
汽車道を歩いているところ 鉛筆画(別冊太陽『山下清 あるがままの自分に正直に生きよ』53頁より)

大きな貼り絵の中の細密描写に注目

 山下清の作品と言えば、『長岡の花火』が有名だが、作品に描かれている人物を一人ひとり、よく見ていただきたい。じっと目を凝らすと、小さな人々の顔がそれぞれ表情豊かで、ポーズも愛嬌があるように見える。

右上から「大東亜戦争」(別冊太陽『山下清 あるがままの自分に正直に生きよ』58頁)、「草津温泉の野天風呂」(2点・82頁)、「上野の地下鉄」(34頁)、「桜島」(77頁)、「観兵式」(38頁)、「金町の魚つり」(68頁)、「トンネルのある風景」(63頁)。
右上から「大東亜戦争」(別冊太陽『山下清 あるがままの自分に正直に生きよ』58頁)、「草津温泉の野天風呂」(2点・82頁)、「上野の地下鉄」(34頁)、「桜島」(77頁)、「観兵式」(38頁)、「金町の魚つり」(68頁)、「トンネルのある風景」(63頁)。

 立小便をする子供の様子や、海水浴をする人々の影までも、仔細に表現されている。これらは圧倒的な記憶力で再現され、着物の模様や口ひげなど、見れば見るほど細かい。

 清の作品は素朴で温かい雰囲気のものが多いが、その作風とは裏腹に、シニカルともいえる意外な感想を日記に残している。

ぼくは草津温泉にいったとき、野天ぶろで小便や大便をしている人が多かったので、そのままはり絵にしたら、式場先生はそれは本当でもやめた方がよいというので、ぼくは小便をしているのだけをのこしてけしてしまった。

『日本ぶらりぶらり』筑摩書房刊

 

「草津温泉の野天風呂」(別冊太陽『山下清 あるがままの自分に正直に生きよ』82頁より)
「草津温泉の野天風呂」(別冊太陽『山下清 あるがままの自分に正直に生きよ』82頁より)

 見たままを表現しようとした清と、式場隆三郎(精神科医・清の恩師)との印象深いエピソードである。

富士山を見る前は もっと美しい山だと思っていたものが 本物を見たら
自分の思ったより美しく見えなかった
はじめ見た時は美しく見えても よくばって いつ迄も見ていると 美しく見えなくなってしまう 
何でもよくばって見ていると 美しく見えなくなると言う事がよくわかりました

『裸の大将放浪記』ノーベル書房

  山下清は、常に現実を俯瞰してみる人だった。

 別冊太陽『山下清――あるがままの自分に正直に生きよ』では、おかしみと独創性に満ちた山下清の言葉とたくさんの作品を紹介している。また、巻頭の特別寄稿として『きょうの猫村さん』の作者として著名な、ほしよりこさんによるマンガを収録するなど、豪華執筆陣による寄稿にも注目してほしい。

文/濱下かな子(編集部)

【目次】
〈特別寄稿〉山下清の旅日記 ほしよりこ(マンガ)

KIYOSHI  YAMASHITA  1922-1971

評伝 山下清 山下浩 ①清が少年だった頃/②ぶらり放浪の旅へ/③有名人になった清/④成功と不自由

1 貼り絵との出会い 1922-1940
●作品とことば 学園生活/風景・静物/戦時中   

2 逃亡と放浪 1940-1954
●作品とことば 花々/スケッチブックより❶/太平洋戦争/戦後の風景画(1949 -1950)/スケッチブックより❷/戦後の作品(1951-1955)

3 「画伯」、全国へ 1955-1960
●作品とことば ペン画のはじまり/風景(1956-1960)   

4 やっぱり日本が一番 1961-1971
●作品とことば ヨーロッパ旅行/新東京十景/晩年の貼り絵/東海道五十三次

寄稿
山下清の登場と芸術界からの逆風 服部正/「日本のゴッホ」と呼ばれて 中村高朗/西欧近代絵画史で読み解く 中村高朗/世界の放浪の素朴画家たち 遠藤望/陶芸と「放浪の画家」のイメージ 藤原貞朗

山下清 年譜

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