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遠くから眺めるものではなく、わたしたちのもの アートの現在がわかる5冊

記事:じんぶん堂企画室

美学校編『美学校1969-2019 自由と実験のアカデメイア』

 晶文社がおすすめするのは、美学校編『美学校1969-2019 自由と実験のアカデメイア』。

 赤瀬川源平、中西夏之、澁澤龍彦が教鞭(きょうべん)をとり、南伸坊、久住昌之、浅生ハルミンが学んだ伝説の教場「美学校」。本書は、会田誠、菊地成孔、中ザワヒデキ、細馬宏通、Chim↑Pom卯城竜太……歴代の講師陣と出身者が語る、アートの要所のクロニクルです。

 美学校が開校したのは1969年。今年で50周年を迎えます。ときに時代に反抗しながら、ときに時代を反映しながら、先鋭的アーティストたちが未来の才能とぶつかり合ってきたアートの軌跡。正史にならないオルタナの美学がここにあります。

 「あいトリ」だってアートだけれど、「あいトリ」だけがアートじゃない。美学校をのぞき込めば、多様で雑多でつかみきれない芸術の姿が浮かび上がります。芸術原理主義、続けてこられて50年。

 結局のところ、「美って何なんだー!?」

松田行正『 独裁者のデザイン : ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東の手法』

 では、オルタナから一転、独裁者にとってのアートとは?

 平凡社がおすすめするのは松田行正『 独裁者のデザイン : ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東の手法』。独裁者がプロパガンダにグラフィックデザインをどのように利用してきたか、をテーマにした本です。デザインやアートのもつ力の大きさに気づかされ、私たちの「見る目」を養ってくれる一冊となるはずです。

 この本の「読みどころ」、というか「見どころ」は、まずはブックデザインを楽しんでいただきたい。小口からにらみをきかせるスターリンは強烈! 装丁はその道の第一人者の著者自身が手掛けたので、「ブックデザインの現在がわかる本」でもあります。

 デザインやアートを発信する側、メディアの仕事に携わる方に、ぜひ読んでいただきたいと思いますが、SNS時代のいまは誰もが気軽にメディアになれる時代です。ぜひ、デザインのもつ力と、それを発信する責任を読み取ってほしいと思います。

ウティット・ヘーマムーン+岡田利規『憑依のバンコク オレンジブック』 

 芸術と政治権力―ー。このテーマをリアリティーをもって伝える一冊が、白水社おすすめの、ウティット・ヘーマムーン+岡田利規『憑依のバンコク オレンジブック』。

 タイ現代文学の旗手ウティット・ヘーマムーンがタイの現代史と一人の芸術家の物語を描いた『プラータナー:憑依のポートレート』。この作品を、国際交流基金アジアセンター主催の日本と東南アジアの文化交流事業「響きあうアジア2019」のプログラムの一つとして、岡田利規の脚本・演出、塚原悠也(contact Gonzo)による空間構成=セノグラフィーにより、日本とタイが国際共同制作で舞台化しました。本書はその公式ガイドです。

 ウティット氏と写真家・森栄喜によるバンコク観光案内、塚原氏らによる舞台の攻略ガイドやエッセイ、岡田利規による戯曲[日本語版]を完全収録! アートと助成金の関わりと、国際共同制作の実際も、よくわかります。

 アートの背景に見えてくる「政治的なリアル」。個人の欲望をもとに「国家の身体」を描く芸術表現。舞台芸術をアーカイブする「読み応えある写真集」としての新機軸も体感できます。アートを何層にも楽しめる一冊です。

平田オリザ『新しい広場をつくる 市民芸術論綱要』

 そうした国際的な連携がある一方、国内で芸術に携わる人々はどのような現状なのでしょう。そんな視点から朝日新聞社がおすすめするのは、平田オリザ『新しい広場をつくる 市民芸術論綱要』(岩波書店)。

 経済合理主義が徹底され、格差が広がる社会。著者は、そんな息苦しい社会の緩衝材として、各地の劇場や音楽ホール、美術館こそ、あらゆる人が交流できる「新しい広場」になる、と伝えます。そこで大切なのは、地域の人たちがただ受け身で鑑賞するのでなく、みずから文化を創る「文化の自己決定能力」。地域の誇りとなる文化の存在が人々の心を結びつけることは、東日本大震災後にいち早く獅子舞を復活させた女川町の竹浦集落が、高台移転についてもっとも早く合意形成したことに表れています。

 芸術は人間にとって健康や教育とまったく同じように必要なものだから、医療保険と同じように文化格差を解消する芸術保険制度があってしかるべき、という提案はすばらしい。

 あるオーケストラのスタッフが、芸術が社会に何を提供できるのか、社会から何を求められているかを考えるときに指針と勇気を与えてくれる本として、本書を紹介してくれました。芸術に携わるすべての人に読んでほしい一冊です。

森村泰昌『自画像の告白--「わたし」と「私」が出会うとき』

 最後に筑摩書房のおすすめをご紹介。森村泰昌『自画像の告白--「わたし」と「私」が出会うとき』です。

 ダ・ヴィンチからウォーホル、森村泰昌本人まで、著名な画家13人の「自画像」が語る、「私」とは何か。めくるめく彼らの告白から、美術とは何かが垣間見えてきます。

 美術とは、それを受け取る人を抜きには成り立たない。有名な自画像の「私」、それを演じる森村泰昌氏の「わたし」、そしてそれを見る読者である私。美術とは私が問われる経験だという意味で、ぜひ読んでほしい一冊です。

 オールカラーの迫力で、自画像をめぐるこれだけ濃い「体験」をしたあと、「私」についてこれまでと違う感覚になっているかもしれません。

 アートは、遠くから眺めるものでなく、わたしたちのものーー。そう気づかせてくれる5冊です。

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